2021年 5月 18日 (火)

少子化対策 若者の生の声を聴き心に寄り添って

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■『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?-結婚・出産が回避される本当の原因』 (著・山田昌弘 光文社新書)

   1990年代のはじめに「少子化」という問題が認識されてから(「少子化」という言葉もこの頃つくられた)およそ30年。合計特殊出生率は2005年の1.26を底に2015年には1.45まで上昇したが、その後毎年0.1ポイントずつ低下して2018年は1.42となり、2019年は1.36と大きく低下した。

   2019(令和元)年の出生については、いわゆる令和婚(令和元年に結婚するために2018年の結婚を先延ばしにした)という一時的な低下要因の影響が指摘されているが、それを差し引いても、低い出生率の水準をなかなか脱することができない状況が続いている。

   これまでの少子化対策をどのように受け止め、これからどうすれば良いだろうか。

多少の期待もあったが

   出生率が緩やかに上昇した頃(2015年の出生率が公表された2016年頃まで)には、これまで講じられてきた少子化対策の効果が一定程度は現れているのではないか、これからも多少は期待できるのではないかといった雰囲気があったように思う。

   しかし、筆者は、「対策によって悪化を『食い止めた』とも言える」が、「出生率は大きく回復することなく、1.5以下の状況」が続いており、「『若者の出産行動を変える』ことには成功していない」として、少子化対策は事実上失敗に終わっているという。「対策に取り組んではいる」「少しずつ前進はしている」しかし、「対策が『功を奏しているとは言い難い』状況にある」のが「現実」という指摘だ。

日本とは違う欧米固有の価値意識

   日本の少子化対策は、その初期から、欧米でみられる少子化対策的なもの(家族政策等)と同様に、子育て支援や仕事と家庭の両立支援が中心であった。筆者は、結婚・出産・子育てなど家族について、欧米と日本の価値意識にはかなりの違いがあり、日本の少子化対策が「空回りしてしまった」面があるという。

   欧米では、家族に関する慣習・意識として、(1)子は成人したら親から独立して生活するという慣習(若者の親からの自立志向)、(2)仕事は女性の自己実現であるという意識(仕事=自己実現意識)、(3)恋愛感情(ロマンティック・ラブ)を重視する意識(恋愛至上主義)、(4)子育ては成人したら完了という意識、という特徴があるとする。

   成人したら親に依存せず1人暮らしをするので結婚や同棲は1人暮らしに比べると経済的に合理的、男性も女性も仕事をもって経済的に自立することが当然とされているので仕事を続けることが重要、人生のパートナーを情熱的に求めることが価値として定着しているので愛があればパートナーになるのが自然、子どもが成人すれば親の責任は果たしたとみなされる社会であるので子育ての責任が限定、ということでそもそも少子化が起きなかったり(米国、英国など)、若い男女の自立を助ける子育て支援や両立支援といった少子化対策が効果的だったりする(フランス、スウェーデン、オランダなど)ことになる。

   しかし、日本では、多くの若者にはこうした欧米固有の価値意識はあまりあてはまらず、加えて、(1)「リスク回避」傾向、(2)「世間体重視」、(3)子どもへの強い愛着-子どもにつらい思いをさせたくないという強い感情、という日本の家族に特徴的な意識や慣習があるとする。

   日本の若者は将来にわたり生活水準を維持できるかということを気にするので、交際する前に子育てから老後までを見据えて、経済的に少しでも不安のある相手との交際を避けようとするなど、リスク回避の意識が結婚や出産を控える要因になっている。また、結婚したり子どもをもって育てたときに、自分や子どもが世間からどのようにみられるかが気になるし、子どもに対する将来にわたる責任意識が強いので、子どもにつらい思いをさせたくないという思いや、子どもが成人した後も支え続けるという考えがあることが、子どもの数を絞ったり、子どもに十分な環境を与えられないかも知れない結婚をしないことにつながっていることになる。

若者の意識やおかれた環境は多様かつ複雑

   本書における筆者の分析は、若者の意識に関する長年の研究の蓄積や豊富な意識調査などのデータが参照されており、普段はあまり考えることのない人々の心の中をかなり分け入ったところをみているようで、とても興味深い。

   若者の意識やおかれた環境は多様かつ複雑であるし、少子化は一部の若者がもたらしたものではなく社会経済全体の構造に様々な課題があって生じていると考えている評価にとっては、「『親が比較的豊かな生活を保っている』のに、『自分が将来築ける生活は親の水準にも達しない』と考えている若者たち」が「少子化をもたらしている」という指摘など、やや割り切りすぎ(若者の意識やおかれた環境の複雑さ等を捨象しすぎ)ではないかと思うところも結構あるが、「日本の若者は、恋愛は恋愛、結婚は結婚、子育ては子育て、子どもの教育費は子どもが大きくなってから、老後は老後、と別々に考えているわけではない」ので「出会いだけの提供、結婚生活の支援、子育て支援をばらばらに支援しても、なかなか効果がない」といった指摘など、なるほどと思うところも多い。

   少子化対策には奇策のようなものはないし、これさえやればというものもないだろう。若い世代の経済的安定の確保、出会い・結婚支援、出産・子育て支援、仕事と家庭や地域生活の両立支援、働き方改革、若者が暮らしやすい地域社会や住まいづくりなどが基本的な視点だと思うが、それらを具体的な施策に落とし込んで成功に近づくためには、施策をつくるときや点検するときに、本書全体を通じて示唆されている、若者の「生の声」を聴けているか、若者の「心に寄り添」うことができているか、という問いかけを大事にする必要がありそうだ。

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