2024年 4月 23日 (火)

鬼滅の難読ワールド 渡辺静晴さんはヒットの底流に日本語熱を見る

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   サンデー毎日(1月24日号)の「校閲至極」で、毎日新聞校閲センターの渡辺静晴さんが、社会現象となった「鬼滅の刃」を校閲目線で論じている。難しい名前があふれる作品の人気は、昨今の日本語ブームとどこかで通じていないかという推論だ。

   確かに、鬼滅は壮大な難読ワールドでもある。原稿の誤字誤用に目を光らせる校閲記者にもなかなかの厄介ものらしい。紙上の「週間ベストセラー」などに作品名が載り始めた頃、渡辺さんは「鬼〈減〉の刃」と見誤った。言葉のスペシャリストにしてこれだ。

「人によって校閲スタイルはさまざまですが、私の場合、心の中で音読しながら文章を点検するのが常のため、ここでさらに困った場面に遭遇しました。原作者の名前が何度覚えても音読できないのです」

   「鬼滅」の原作者は吾峠呼世晴(ごとうげ・こよはる)さん。本名はおろか性別まで非公開らしいが、間違いないのは難読という点である。吾を我、晴を春と誤って出稿してくる記者もいるという。渡辺さんはこの名に遭遇するたび、「五口(ごくち)のわれ、峠で呼ぶ、世は晴れやかなりー」と、呪文のように唱えながら万全を期すそうだ。

   主人公の竈門炭治郎(かまど・たんじろう)は、今や誤りやすい固有名詞の筆頭格。「門」を忘れた原稿も少なくない。原作者や主人公だけではない。「登場人物や鬼の名前には難読・難解な漢字がズラリ...圧倒されてしまいます」

   すなわち、嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)栗花落カナヲ(つゆり・かなを)悲鳴嶼行冥(ひめじま・ぎょうめい)不死川玄弥(しなずがわ・げんや)、さらには禰豆子(ねずこ)猗窩座(あかざ)獪岳(かいがく)...と目が回る。

  • 「鬼滅」最終巻の発売を知らせる書店=世田谷区内で、冨永写す
    「鬼滅」最終巻の発売を知らせる書店=世田谷区内で、冨永写す
  • 「鬼滅」最終巻の発売を知らせる書店=世田谷区内で、冨永写す

女性がブーム牽引

   東京五輪と共に記憶されるはずだった「2020」は、おそらく「コロナと鬼滅の年」として日本の世相史に刻まれよう。漫画の単行本が全23巻で累計1億2000万部超、昨秋公開の劇場アニメも、コロナ禍のハンディの下で興行収入の歴代首位に躍り出た。ちなみに映画の主題歌「炎」は「ほむら」と読ませる。

   ここまで当たった要因は様々に語られている。曰く、男女が協力して敵に立ち向かうプロット、和洋折衷の妙、幻想的な時代設定...。渡辺さんは、別の見方を提示する。

「小中学生の男女のファンが多いのも事実ですが、10~40代の女性がブームをけん引したともいわれる...私には衰えを知らぬ日本語熱の高まりが底流にあるように思えてなりません。男女を問わず幅広い年齢層が、難読・難解の漢字を抵抗感なく受け入れている」

   たとえば剣術の型が、漢数字ではなく金銭証書などで使う「壱、弐、参、肆、伍、陸、漆、捌、玖、拾」で表記されていても、読者の側に「物語の世界観として楽しめる十分な素地がある」というわけだ。

「人の思いの不滅に焦点を当てた『鬼滅』は、日本語に携わる私たちにも多くのヒントを投げかけています」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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