ほどよく、ややこしい
「校閲至極」は毎日新聞の校閲記者が交代で書いている。この「遊牧民」で前回(2019年9月)採り上げたのも、何のご縁か渡辺さんの回だった。
日本語ブームというものがあるとすれば、SNSの普及と無関係ではなかろう。
だれもが発信者として「小さなメディア」になれる時代だが、それにはパソコンやスマホに文字列を打ち込む作業が要る。これほど多くの人が日々なにかを「記している」時代はなかった。憂鬱や薔薇を子どもが平気で「書ける」状況も初めてだろう。
書き言葉としての日本語を皆が意識し、深奥な漢字世界を隔てるハードルも低い。かくして大人も子どもも、鬼滅の難読ワールドを攻略できてしまう...凄まじい現実である。
鬼滅が広く国民に受け入れられた背景として、渡辺さんはまさにその点を挙げる。いかにも2020年の、この国ならではの現象だろう。あらためて日本語の、ほどよくややこしい世界に「全集中」で浸かるのもいい。
冨永 格