2021年 9月 28日 (火)

冬のビール 眞鍋かをりさんが酷寒のベルギーで知った一杯の温もり

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   季刊誌「ビール王国」(Vol.29)の「眞鍋かをりの旅先ビール」で、眞鍋さんが冬こそビールと書いている。メディアで活躍するマルチタレントにして、ワインやチーズなど食全般に造詣が深い彼女。専門誌に連載を持つだけに、もちろんビール体験も豊かなのだろう。この号の特集「冬のクラフトビール大全」に、連載の内容を合わせてきた。

「某大手アイスクリームチェーンで年間の売り上げが一番大きいのは、元日なんだそうだ...家族や親戚が集まるお正月に暖かい部屋の中で、こたつに入りながらアイスクリームを食べたいという需要があるのは納得である」

   アイスと同様、ビールも冬の室内でこそ美味くなるというロジックだ。冷房の効いた部屋で飲むよりも、暖炉の前で味わうビールのほうが上、という理屈である。

「ビールは冬の食べ物とも相性がいい。お出汁のきいた温かいお鍋や、蟹や牡蠣などの海鮮、グラタンのようなチーズ系の料理にもビールは抜群に合う」

   ここから、筆者の冬ビール体験が続く。箱根や草津といった温泉地で体の芯まで温まったあとの雪見ビール。そして京都の嵐山で湯上りに飲んだ抹茶ビールは「喉越しやホップの苦みに、お抹茶のふくよかな香りと柔らかな甘味がよく合っていて、たまらない」と。

   眞鍋さんの経験談は国内では収まらない。海外で印象的だったのは、ヨーロッパが大寒波に見舞われた年、ブリュッセルで飲んだベルギービールだという。

  • 修道院ビールの代表格シメイには数種あり、それぞれアルコール度数などが違う
    修道院ビールの代表格シメイには数種あり、それぞれアルコール度数などが違う
  • 修道院ビールの代表格シメイには数種あり、それぞれアルコール度数などが違う

ぬるいオルヴァル

「氷のように冷たい石畳を歩いて旧市街や王宮を散策し、休憩のためビアパブに辿り着いた頃には、身体がまるで石膏で固められたかのようにカチカチに...」

   店に飛び込んではみたが「この状態でビールか...」と我に返る。しかし暖かい店内で、スポーツ中継を見ながらフライドポテトを食べるうちに体がほぐれ、こんなのもいいなと思い直した...「ポカポカしだした身体に、ぬるめのオルヴァルが沁みるのである」

   ここで豆知識。ベルギーは九州よりひと回り小さい国土に100を超す醸造所がある、まさにビール王国。銘柄で数えれば確実に1000以上、1500いくかもしれない。

   オルヴァル(Orval)はシメイ(Chimay)などと並ぶトラピスト(修道院)ビールで、大きな分類では上面発酵のエールビールである。アルコール度数は6%強で色は褐色、口が大きく開いた聖杯型のグラスで味わう。

   ブリュッセルの夜、眞鍋さんは独りだった。「あのとき飲んだオルヴァルはどんな温かい飲み物よりも、温もりをくれたような気がする」

   コロナの冬、街の酒場は世界中どこも「温もり」にはほど遠い状況である。

「いまは気軽に旅行に行ける状況ではないけれど、いつか必ず夜明けはやってくる。また冬に旅先で飲むビールを楽しみにしながら、家や近場でこの時期のビールを楽しもう」

実体験に説得力

   「ビール王国」は、隔月刊「ワイン王国」の別冊として年に4回出版される。版元は雑誌名と同じワイン王国。愛飲者のほか、飲食業界で広く読まれているようだ。

   この種の雑誌の常で、すべてのコンテンツが多かれ少なかれお酒のPRになっている。ただ、宣伝臭が強すぎると訴求力が高まらないというジレンマがある。内容が読み物として面白く、具体的で説得力があり、かつ読後にビールの好印象がほんのり残る、というバランスが要求される。ここらは筆者というより、編集者の腕の見せ所だ。

   「実は冬でもビールが美味い」というテーマは、マーケティング的にはオフシーズンの需要をどう掘り起こすかという狙いだろう。そこを、如何にして魅力的な装いの特集に仕立てるか。のみ込みが早そうな眞鍋さんは、こうした編集側の狙いによくこたえている。

   冷え込むブリュッセルでの体験は、ビールの温もりを語るに相応しい。一読してベルギービールを冬に飲んでみたいと思う人は多いだろうし、通販を含め、日本のリビングでそれを実現する手段はいくらでもある。

   私もブリュッセル駐在時にあれこれ楽しんだ。ジョッキでグビグビ、プハーというのが日本流なら、かの地では年配女性がカフェのテラスで、新聞を読みながらちびちび飲んでいたりする。乾いた喉を潤すのではなく、そのものを味わうらしい。

   「家飲み」主流の冬、個性派ぞろいのベルギービールは、一人二人で静かにやるのに向いている。では、小声で乾杯。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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