2024年 4月 23日 (火)

少子化で小ぶりになる小中学校のモデルになる

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■『日本一小さな私立学校の大きなこころを育む教え』(著・相大二郎、PHPエディターズ・グループ)

   燈影学園は、西田天香さんが始めた生活共同体「一燈園」のメンバーのための私立小学校として創設され、それから90年が経過した。本書『日本一小さな私立学校のおおきなこころを育む教え』はその歴史と現在を伝える。著者は相大二郎・学校法人燈影学園学園長。

   同小学校が一般に開放されたのは1989年、それまでに設立された中高と合わせて、一学年10人程度の入学者が高校卒業まで12学年学べる一貫性私立学校となった。京都駅のとなりの山科駅から歩ける距離にあり、琵琶湖疎水のほとりの高台にある美しい敷地である。組替えはなく複数の学年で行動する機会が多いため、上級生には自然とリーダーシップが身につくし、同級生、在校生は好き嫌いを超越して家族のような絆で結ばれている。小中学校の授業料は年間50万円足らず。都心でも過疎地でも少子化で組替えのない小中学校が増えている現在、義務教育の在り方を考えるうえですばらしいモデルではないか。

自然にかなう教育

   天香は「自然にかなう教育」という言葉を残した。それはなにかを追求することが教職員の最大のテーマだ。自然には、環境としての自然、現象としての自然、摂理としての自然の三つがあり、そのことを教育現場で意識して、心と体と脳をバランスよく育てることに腐心しているという。

   一日の生活は15分の瞑想から始まり、昼食中言葉を交わすことも禁じられている。朝の時間は、感謝の祈り、反省の祈り、誓いの祈りなど自らの心と対話する時間である。その時に湧いて出た疑問に大人が答えを与えることはしていない。昼食時も同じく思索を通じて心を修養する時間になっている。

   燈影学園の最大の特色は、作務(さむ)、掃除である。小学生から学校の便所を掃除するほか、高学年になると木々の伐採、道路の修繕にいたるまで学校の各所を手入れする。高校二年生の修学旅行は知らない家庭を訪問して作務をさせてもらう体験の場だ。毎年、十名の生徒が琵琶湖畔の長浜市に赴き、見ず知らずの家庭を訪ねて数件の便所を掃除させていただく。当然、断られる場合も多く、断られるほどに、掃除を許されたときに喜びと充実感が得られるという。便所掃除はこの学校の生徒の精神性に一生の財産を与えている。

伝統文化と少林寺拳法

   小学一年生のリトミックからはじまり、学年があがるにつれて本格的な伝統芸能と武道を体得する授業が必修になっているのもこの学校の特色である。低学年の時に上級生の演技を観て憧れ、能舞台にあがる生徒もいる。ほとんどの生徒は、一生のうちのこの時期に伝統芸能の舞台にあがる稽古をすることに感謝の気持ちをもち芸能が好きになっていく。 秋の発表会では高校二年生が能を舞い下級生が太鼓、笛、地謡を演奏する。

   少林寺拳法は2009年に着任した教諭が担当し、選択科目であるとともに部活動になっている。わずか15人の部だが2016年には中学生が日本一となった。少林寺拳法は自己鍛錬であると同時に仏教の精神を学ぶ修行でもある。自らと対話する時間を一日に二回持つ生徒たちは、憲法のエッセンスをおのずと体得していくのだろう。

   この30年で、燈影学園は、一燈園のメンバーの学校から公の存在に生まれ変わった。入学者の動機で一番多いのは、兄や姉が楽しそうに過ごしているからだという。少子化の今日、12学年が一つの棟で学ぶ機会は、競争から共創への転換の象徴のように見える。より高度な学習を求める一部の子供たちはともかく、仲間と過ごすこと、知らない他人に挨拶して作務を申し出る勇気と誠実さを培うことは生きる力として大きな財産となる。このような初等中等教育のあり方を全国の教育現場の教職員、教育委員会の皆さんにもぜひご覧になっていただきたい。過疎地をはじめ、このような公立学校を希望する地域が出てくるのではないか。

ドラえもんの妻

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