2024年 4月 24日 (水)

歪(いびつ)の美 神崎恵さんは同じ顔の氾濫が「不思議で不気味」

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   with 5月号の「もう、メイク落としていいですか?」で、美容家の神崎恵さんが個性的な顔立ちの魅力について書いている。

「みんな同じ顔に見えるのは、わたしがおばさんだから?」

   20代のアシスタントに筆者が放った問いから、本作は始まる。インスタグラムを眺めていた神崎さん、あまりに「同じ顔の超美人さんたち」ばかりなのに驚いたというのだ。

「その光景が不思議で不気味で、自分の目や感覚がおかしいのかと...」

   アシスタント氏は「みんな同じ加工なんですよ」と答えた。

「だよね...でもさ、同じ顔でもいいの?...シャープなフェイスライン、小さくとがった顎、顔の大部分を占めるほどの大きな目に、高くとおった鼻筋に小さな小鼻。極め付きの陶器肌...『魅力的だなぁ』というよりは『上手だねぇぇぇ』が上回る」

   神崎さんによると、化粧品の進化や美容クリニックにより、誰もが簡単に顔を整えられる時代らしい。勢い、目鼻口の大きさや配置も画一的になりがちだ。

「だからこそ?整えられすぎていないものに年々心が動くようになりました」
  • メイクでも「整えられた美しさ」はあるけれど
    メイクでも「整えられた美しさ」はあるけれど
  • メイクでも「整えられた美しさ」はあるけれど

移ろう基準

   整えられていないものとは、例えば、ちょっと目が離れていたり、唇が大きかったり...そういう造作に、神崎さんは「かわいいなぁ」「キレイだなぁ」と見惚れるという。ファッションでもメイクでも、整えられた美しさというものは確かにある。しかし「性格だって、いい子すぎるより、ちょっと毒があったり、ちょっと『変』なほうが好きになる」と。

「あえてのノーマスカラやノーライン、そばかすが点在するくらいの肌に、センスや生の美しさをじわじわ感じる」

   神崎さんはジュエリーの製作も手がけるが、真珠なら粒ぞろいのまん丸より、予想もつかない凹凸や曲線のほうに惹かれるらしい。同じ感覚で、天然石のキズや色の濃淡、その石だけの味わい...そんな未整備の歪さに魅了されるそうだ。

「美しさの基準は時代時代で変化するもの。昔昔はふくよかな体が美しさの象徴だったり、ある国では青白い肌こそ美しさで、そのために血を抜いて顔色を青くしていたという話もあるほど。移り変わる美しさの基準...今そこにないものが美しさの要素になるのかもね」

   神崎さんのイチオシはいま「長い首」だという。

「顔もそう。だれもが同じ顔になれちゃう今、そのひとだけがもつ形や色をだせたほうが『美しいひと』になるよね...整えられたものよりも自分だけの凹凸。そのひとだけがもつ愛おしい歪さに美しさを感じています」

自分への自信

   冒頭の問いかけにもあるように、若い人が同じ顔に見えたら老いの入口だろう。私も、アイドルでいえば「モーニング娘。」や初期の「AKB48」くらいまでは顔と名前が何とかつながったが、SKEやらNMBやら○○坂などが出てきたあたりで諦めた。ジャニーズ系など男性アイドルはハナから放置である。

   神崎さんは、若い女性の顔が「同じ」になった背景として、化粧や美容の技術が向上したことを挙げる。そこに女優かタレント、はたまたモデルか、万人が「憧れる顔」が登場し、多くが競うように「同じ加工」に勤しむことになる。

   結果として、持って生まれた顔のオリジナリティは希釈されていく。逆にいえば、個性的な顔立ちには希少価値が生じる。神崎さんはさらに踏み込み、未整備の歪さを「かわいい」「きれい」と評価している。タレントや女優のキャリアもある美容研究家が言うのだから、自ずと権威が付与されるというものだ。自分の顔に自信を持とうというメッセージでもあろう。それもナチュラル、オリジナルの価値を見直そうと。

   筆者も言うように、美醜のスタンダードはすぐれて文化的な事柄で、時代により移ろい、また同時代でも国や民族によって異なる。とはいえ「同じ顔」を競うのは、文化とは別物の、むしろ逆向きのベクトルのように思えるのだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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