2021年 6月 19日 (土)

何も起きない日々 橋田壽賀子さんが書き遺した、幸せな老境

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見開きの独占秘話

   連載の「未発表回」が、どのような経緯で編集部にストックされていたのかはわからない。欄外に「取材・文」として女性名のクレジットが添えられており、聞き書きなのかもしれない。いずれにせよ、他誌に先んじられる心配のない「肉声」である。

   週刊女性はこのエッセイの前2ページを割いて、見開きで「幻の"渡鬼"次回作はコロナ禍がテーマも...『もう書かない』と決めた最晩年の悟り」と題する「哀悼秘話」を載せている。「編集部だけが知る"最後の日常"とは...」と。

   そこで担当編集者は「最後にお電話したのは2月半ばでした。『体調が悪くて。脳の検査があるから。また来週に連絡をください』 そうおっしゃっていました」と語っている。それが最後の会話になったそうだ。

   2月下旬に体調を崩し、都内で入院。3月には熱海の病院に移り、4月3日に自宅に戻った翌日、帰らぬ人に。ほぼ望み通りの最期となった。

〈あれだけの仕事をやり遂げ、九十五歳まで書き続け、現役のまま、すうーっとあちら側に行く。なんと羨ましい終わり方であろうか〉

   林真理子さんは、週刊文春(4月22日号)の連載でそう称えた。

   人生の終章で「何も起きない日々」を抱きしめるには、長い準備が要るようだ。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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