2021年 9月 23日 (木)

スケボーの詩 中沢新一さんは五輪新種目に束の間の美を見た

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   週刊現代(8月21-28日号)の「今日のミトロジー」で、中沢新一さんが五輪の新種目、スケートボードのポエジー(詩情)について論じている。スケボーでも、街にあるような坂や階段、手すりを配したコースで技を競う「ストリート」部門である。

   大道芸人の基本技であるジャグリングの話から始まる。

「道具を普段の生活の場面と同じに使用したのでは、芸にならない...宙に投げ上げられたボールは、現実の中ではなんの役にも立たない存在へと変容する...このときボールは『無為』と『自由』の象徴となる」

   筆者は続けて、スケボー(ストリート)の面白さは「ジャグリング芸の上下を反転させたような構造から生まれる」と説く。ん? どういうことだろう。

「市民生活にとって通行や安全のために、とても有用な機能を果たす手すりや階段が、むしろ邪魔な障害物として、無用を宣告される...スケーターたちはそれを用いて、自分自身をジャグリングのボールに変えて、宙を舞うのである」

   本来の機能を奪われた手すりや階段はモノとなり、演者の引き立て役に回る。

「スケーターたちは...日常生活をなりたたせている有用な行動の『文法』を、ひっくりかえしてみせ...日常の外にある『美』を、短時間だがこの世に出現させようとするのである...こういう美には、しばしば『ポエジー』が宿ると言われてきた」
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解説者にも資質

   中沢さんによれば、詩の創作活動は、普通の言葉を日常的な環境から離脱させ、意味の浮遊状態を創ることに始まる。そのうえで音(おん)やリズムを頼りに「新しい言葉の組織体」を生み出す作業であると。

   スケボーの選手たちも、日常世界の人工物から本来の用途を奪い取り、その浮遊空間に己の身体とボードを投げ込んで、つかの間の美を出現させる。そこにポエジーとの共通点がある...そんなロジックである。

   「しかも、このスポーツが発生させているポエジーは、本質的に新しい」ともいう。

   フィギュアスケートや新体操なども詩情を醸し出すが、それは古典的である。クラシック音楽のように、連続的に流れる滑らかなメロディーラインに従う。しかしスケボーのポエジーは逆に、滑らかな旋律を断ち切る突然のジャンプを基本とする。

「空中でのボードの回転なども突発的で、非連続な短いカットが集積されて、パフォーマンスが出来上がっている...このポエジーにもっとも近い言葉による詩といえば、現代ではおそらく『ヒップホップ』のそれということになろう」

   中沢さんは、スケボーの試合を解説するには知識や経験に加え、新たなポエジーを語りうる語彙やリズムが必要だと書く。そして、NHKの実況で話題になった「ゴン攻め」「ビッタビタ」「鬼やばい」といった言葉たちについて、筆者は「このスポーツの『癖』のようなものを、うまくとらえている...解説者として登場させた人物の選択は、『スポーツの詩学』という観点から見ても、まったく正しいものだった」と評価する。

「どんなスポーツにもポエジーが宿っており...ふさわしい解説の詩法がある」

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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