2024年 4月 20日 (土)

キャンプの酒 西村瑞樹さんは「五感で感じるものすべてが肴」と

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   「男の隠れ家」10月号「バイきんぐ西村の オレのキャンプ道」で、キャンプ芸人としても知られる西村瑞樹(みずき)さんが、キャンプの酒を美味そうに書いている。

   西村さんは人気お笑いコンビ、バイきんぐの(主に)ボケ担当。コントで非常識な人物をやらせたら絶品で、相方 小峠英二さんのキレ芸を引き出す。キャンプは同じ趣味の芸人らと楽しむこともあるが、もっぱらソロで、お酒も大好きとみえる。

   「キャンプと酒は相性が抜群。酒に合うつまみを作って呑むのはもちろん、焚き火をいじりながら呑む酒も最高です。ひと通りキャンプ飯を作っては舌鼓を打ち、ひたすらビールで流し込む。キャンプ場に着いたらまずはビール」...紛うことなき呑兵衛の筆致だ。

「真夏はキャンプ場に到着して荷物を降ろすだけで汗だくになるので、キンキンに冷やしたビールをクーラーボックスから取り出し...体が欲しがる分だけ流し込むのです...何もせず自然の中でボーッとしながら過ごす時間は最高に贅沢なものなのです」

   西村さんの場合、キャンプ酒の友は料理だけではない。

「小高い丘から眺める風景や町並み、夜景、川のせせらぎや森の木々が風に揺られ擦れる音に鳥の囀(さえず)りなど、五感で感じるもの全てが酒の肴になる」

   正真正銘の酒飲みとお見受けした。ここからはキャンプ飯と酒肴の話になる。

  • 焚き火にキャンプ飯、そしてお酒を一杯
    焚き火にキャンプ飯、そしてお酒を一杯
  • 焚き火にキャンプ飯、そしてお酒を一杯

非日常に囲まれて

   西村さんは、野趣あふれるメニューなどに凝るタイプではないようだ。

「カップラーメンやレトルト食品、缶詰などキャンプ場で食べるものは全て立派なキャンプ飯です。家で食べるのとは違い、外で食べると普段より美味しい気がすると感じられるだけで非日常な訳だからそれで十分なのです」

   実際、キャンプ場近くの道の駅やスーパーで出来合いの「地物」を調達することも多い。テント横で料理をする場合も家で作るものがほとんどで、違いといえば熱源が都市ガスから焚き火にかわることくらいらしい。

「ビールにはやっぱり肉...焚き火で豪快に焼けば見るからに美味そうで、火に滴り落ちた脂で煙が立ち昇り、肉が燻されていく。この匂いだけで缶ビール1本はいける」

   夏がビールなら、冬に欠かせないのは日本酒だ。

「日本酒にはやはり魚介類。焚き火台に網を乗せ魚介を並べる。サザエ、牡蠣、ハマグリなど並んだ姿を見るだけで熱燗2合はいけちゃいます」

   なかでも、ある人に教えてもらった「牡蠣の昆布焼き」は逸品だとか。出汁とり用の昆布にむき牡蠣を並べ、軽く酒を振りかけ、もう1枚の昆布で覆って焼くだけだ。

「軽い蒸し焼き状態になり、牡蠣のぷりぷりさを残しつつ昆布の旨味が浸みていくのです...初めて食べた時の衝撃は今でも忘れられないです。でももし出会いが居酒屋だったらこれほど印象に残っていなかったはず。美味いキャンプ飯っていつまで経っても忘れられない素敵な思い出になるんですよね」

同好の士も納得

   私は自然も野外も好きなのだが、テントで朝を迎える本格キャンプの記憶は子ども時代で途切れている。だからキャンプ場で酒を呑んだ経験はない。好きな人に言わせれば「人生、損してますよ」となるのだろう。確かに、西村さんのようにクーラーボックスに腰かけて飲む缶ビールは非日常の味わいだろう。人生、損している。

   「五感で感じるもの全てが酒の肴になる」という文章は、場数を踏まないと出てこない至言だと思った。こうした「キャンプ酒道」みたいな話は、建前に終始したり、小さなウソが混じったりしがちなのだが、西村さんの場合、状況の記述は高台からの景色や、木擦れの音にとどまらない。肉が燻される匂いだけで缶ビール1本、網に並んだサザエや牡蠣を見るだけで熱燗2合と、豊富な体験に基づき描写が具体的である。

   筆者が発するもう一つのメッセージ「戸外で食べれば何でも普段より美味しい気がする」というのも納得がゆく。これはベランダ、公園、運動会、BBQなど、キャンプ以外で何度も経験している。コロナ過で社会問題になった路上飲みも、平時であれば、星空や夜風といった「非日常」が絶品のつまみになるのではないか。

   「キャンプの酒」のように狭いが濃いテーマで書く場合、最後までついてくる読者は同好の士である。少なくともキャンプか酒か、どちらかが好きに違いない。彼らをつかんで離さない秘訣は、「そうそう」「あるある」という実体験の連打に尽きる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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