2022年 1月 17日 (月)

「中国はサッカー弱い」五輪金メダルは多いのに W杯予選も勝てない理由

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   中国。14億の人口とGDP(国内総生産)世界第2位の経済力を背景に、今年(2021年)行われた東京五輪では、38個の金メダルを獲得。首位の米国にあと一個まで迫ったスポーツ大国だ。

   ところが、サッカーはパッとしない。FIFAワールドカップ(W杯)は出場一度だけ、アジアカップでも2004年の準優勝が精いっぱいだ。なぜ弱いのか。

   2011年から中国で指導を行い、「大連阿爾濱」など中国スーパーリーグ(サッカーのプロリーグ)監督を経験、U-15中国代表の監督候補にも浮上したことのある倉田安治氏に取材。中国サッカーの実情に迫る。(インタビュアー・石井紘人 @ targma_fbrj)

  • W杯アジア最終予選の中国代表(写真:AP/アフロ)
    W杯アジア最終予選の中国代表(写真:AP/アフロ)
  • W杯アジア最終予選の中国代表(写真:AP/アフロ)

代表チームの平均年齢が高すぎ

――現在の中国のサッカー熱は、いかがでしょうか。

倉田:サッカー人気はすごいですよ。中国で人気のあるスポーツは卓球、バスケットボール、そしてサッカーです。今回の2022年W杯カタール大会アジア最終予選も、帰化選手を加え代表チームに対する期待が久々に高かったのですが、現状(11月10日現在、1勝3敗でグループ5位)にファンは少し落胆しているようです。

――中国代表は2002年日韓W杯、つまり予選に開催国の日本と韓国がいなかった時しかW杯に出場できていません。中国代表はアジア予選を突破してW杯にいけるレベルではないのでしょうか。

倉田:中国代表が強いか弱いかの前に、このチームは平均年齢が高すぎると思います。平均年齢が上がればプレーのインテンシティ(強度)は下がります。日本戦(9月7日)に先発した中国人選手(帰化選手以外)の平均年齢は、31歳近く。今の中国代表チームには現代サッカーに必要なスピードが欠けていると思います。

――確かに、一般的にも30歳を過ぎるとフィジカル能力が衰えていくと言われています。それを物語るように、インテンシティが高く、プレースピードも速いと言われるイングランド・プレミアリーグの平均年齢は27歳前後。中国の平均年齢31歳は高すぎますね。

倉田:経験と勢いをミックスさせ、チームの平均年齢が27歳くらいになるのが自然だと思います。現代サッカーではよりインテンシティが要求されるので、平均年齢はさらに下がっていくと思われます。中国代表チームは「若手選手が育っていないな」というのが一番の印象。また、欧州の主要リーグでプレーしている選手が1人というのも、中国サッカーの現状を表しています。
 その国のサッカーのレベルを上げるには、育成システム(一貫指導のカリキュラムと大会形式)を整える、指導者養成、そしてトップリーグ(プロリーグ)のレベルアップが必要です。その上でW杯・U-23(五輪)・U-20・U-17といった世界の大会で結果を出すことが大切。加えてW杯で勝つには、選手の欧州主要リーグでの経験が必要な時代になっています。中国サッカーは、これらがまだうまくいっていないと思います。

自国選手が育成されていない

――過去に、監督の力で中国代表は強くなるのではと思った瞬間もありました。2018年ロシアW杯アジア最終予選では、4試合で勝ち点1の最下位だった中国代表を、リッピ監督が就任すると残り7試合を3勝2分1敗と躍進。さすがイタリアをW杯でチャンピオンに導いた監督だと思いました。そのリッピ監督は今回のカタールW杯アジア二次予選で、シリアに敗戦し、辞任してしまいました。

倉田:リッピ監督は退任する時に「良い成績を収めるために必要な要素がなかった」とコメントし、「勝つためには、もっと帰化選手を増やさないといけない」とも発言しました。ここで言う「良い成績を収めるために必要な要素」が、私が先程述べた内容、つまり「自国の選手が育成されていない」ことを強く指摘したのだと思います。これが現在の代表チームの編成に影響を与えていると思われます。
 今回の代表チームは4人の帰化選手を加えてW杯予選に臨んでいますが、一般的には代表チームが上のカテゴリーから強くなることはない。逆に下のカテゴリーから強くなります。中国代表がまず目指すべきは、U-17の世界大会への出場。W杯で勝つためには、育成への注力が必要です。

――確かに、日本がアジア最終予選を勝ち抜いてW杯に初出場した1998年のメンバーは、中田英寿、川口能活、城彰二など、アンダーカテゴリーの世界大会である96年のアトランタ五輪で代表を経験している選手が入っていますね。
 しかし中国も、2005年にU-17W杯ベスト8に入りましたが、以降は結果が出ていません。なぜでしょうか。

倉田:その後の中国があらゆるカテゴリーで世界大会に出場していない事実から、ご指摘の時代に「黄金世代」の才能が集まったのだと思います。アンダーカテゴリーは2~3歳の幅の大会で、特にU-17の大会ではこのようなことも起こりうると思います。一方、W杯は10~12歳の幅の選手でチームが編成されるので、その国の育成レベルが問われます。

体格、体力、エゴイズムはサッカー向き

――中国の各スーパーリーグクラブは、育成カリキュラムの整理と指導者養成を、欧州から来ているテクニカルダイレクター(TD)に任せていることが多いようです。成果は出ているのでしょうか。

倉田:ポルトガル、スペイン、イングランド、イタリアやブラジルからTDを呼んでいますが、現段階では成果が出ているとは言えません。欧州やブラジルは競争がベースの上で育成カリキュラムがあります。中国は競争が少ないので、より細かい指導(ディテール)が必要になります。これは日本も同じです。
 選手育成では、認知(見る)、ものの考え方(メンタリティー)、コーディネーション(技術・先取り・タイミングコントロール)に働きかけることが特に大切です。例えば、認知なら身体の向き、先取りなら「スペースを作る、使う、3人目を生かす、数的優位を生かす」、ものの考え方では「主体性(自主性、向上心、勝利への意志)」「行動規範(努力、規律、団結)」といった内容。18歳を過ぎたら成熟した選手になっていく考え方が大切です。これらを競争の中だけで習得するよう期待していると、なかなか良い選手が出てこないように思います。
 中国の選手は日本の選手よりも、楽しむことが好き。そこを生かしながらも習得のための細かい指導が必要だと思います。合わせて中国の教育の理解も必要でしょう。中国人選手の体格(サイズ)や体力、そして「俺が!」というある種のエゴイズムは、サッカーに向いている。ディテールを徹底できれば、良い選手はもっと生まれてくるはずです。

――中国の指導者ライセンス制度はどうなのでしょうか。

倉田:中国サッカー協会が行っている指導者養成の中身はわかりません。ただ、国土が広いし人口も多いので、徹底するのは大変だろうなと思います。オランダには「4-3-3」が根付いていますが、国土が狭く人口も少ないので徹底出来た部分もあると思います。
 中国の場合、各省や各クラブでの主導が合っている気がします。私が所属していた「山東魯能」の育成部門は芝のピッチが25面以上、雨天練習場、フットサルコート数面、ホテル、レストラン、学校などが完備していました。このようなハード面をもっと生かして、各省や各クラブが指導者を養成しても良いのかなと思います。ハードは整っているのであとはソフトですね。
 指導者養成に関して一つ気になるのは、中国は幼い段階で、「勉強をする人」と「スポーツをする人」がはっきりと分かれてしまう傾向にある点です。ある意味で指導者は、選手以上に気付きや学びが必要になると思います。意思疎通を図る際もそうですし、例えばある練習メニューについて、それをコピーするだけでなく自分の中で完全に理解し、ゲームモデルを作る時に概念(コンセプト)化していく能力が必要だと思います。

倉田安治(くらた・やすはる)

   1963年2月1日生まれ。現役時代はDFとして本田技研、読売クラブでプレー。元日本代表。引退後は筑波大学大学院でコーチ学を学び、指導者の道へ。アビスパ福岡、ヴィッセル神戸のヘッドコーチ、FC岐阜の監督等を務めた後、2011年から単身中国に渡り、日本人として初めてサッカーの指導を行う。中国スーパーリーグでは大連阿爾浜の監督を務め、アンダーカテゴリーでは遼寧省代表チームや山東魯能を率いて全国大会で5度の優勝に導く。

文:石井紘人(いしい・はやと)
   ラジオやテレビでスポーツ解説を行う。主に運動生理学の批評を専門とする。著書に『足指をまげるだけで腰痛は治る』(ぴあ)『足ゆび力』(ガイドワークス)など。『TokyoNHK2020』サイトでも一年間に渡り、パラリンピックスポーツの取材を行い、「静寂から熱狂そしてリスペクト」などを寄稿。
   株式会社ダブルインフィニティ代表取締役でもあり、JFA協力、Jリーグと制作した『審判』、日本サッカー名シーン&ゴール集『Jリーグメモリーズ&アーカイブス』の版元でもある。

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