2024年 4月 25日 (木)

酒飲みの反省 牧野伊三夫さんは「弱くなった」のに一升瓶を放さず

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俯瞰で活写する

   牧野さんは多摩美大卒。東京の広告会社でグラフィック・デザイナーとして活躍した後に独立、多くの書籍挿画や広告を手がけている。連載のプロフィールによると「酒好き、風呂好き、料理好きとしても知られる」とのこと。乗り過ごしの記述からすると、どうでもいいことだが、お住まいは23区外の中央線沿線だろうか。

   こうした随筆でも、何かのスピーチでもそうだが、概して自慢話は退屈で、失敗談は面白い。一人称で語られる身辺雑記の類を読者が楽しめるかどうかは、優れて筆者が自分をどこまで突き放せるかにかかると言って間違いない。

   記憶が定かでなくても、客観性は保ち得る。牧野さんは前半の家のみ話では妻の「証言」を交えて己の酔態を描写し、後半のハシゴ酒では客人の観察を頼りに記憶の間隙を埋めている。いくつものエピソードを重ねて「酒に弱くなった自分」を俯瞰的に活写した。

   こうした場合、自虐が過ぎると読むほうは白けるが、文末の「居直り」がうまい具合にバランスをとった形。有力誌に連載するだけのことはある。

   さて酒の話となれば、私自身のことにも触れざるを得ない。弱くなったと自覚したのは、60前後だろうか。同じくらいの酒量でも翌朝に残る。体力が衰え、アルコールの処理能力が低下したのだろうが、昔のような無茶な飲み方はできない。2年前から医師の強い勧めで休肝日を設けるようにしたら、さらに弱くなった気がする。

   ここ2年ほど宅飲みが増えたが、〆のご飯にまでたどり着いたのかどうかを覚えていない朝がある。コロナが明けて、次に自宅を離れて飲むのがちょっと怖い。

   京王沿線に住む私の場合、記憶が戻る駅はたぶん八王子となる。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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