リゾートホテル周辺の海でシュノーケリングやダイビングを楽しみつつ、海水魚のクマノミの生態に詳しくなれるマリンアクティビティがある。ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄(沖縄県恩納村)が、2021年12月から提供している「クマノミと瀬良垣島の海を学ぼう!」だ。アクティビティではまず、海洋生物を取り巻く環境問題について、レクチャーを受ける。「そんなことせず、さっさと泳ぎたい」と思うなかれ。例えば、「クマノミの見分け方」を知ったうえで入る海は、何倍も興味深い。記者の体験レポートをお届けする。魔法のフレーズ「1ハマ、2クマ、3カクレ」レクチャーにあたり、モニターつきの部屋に通された。今回、記者を案内してくれるインストラクターは、同ホテルのウェルネス&アクティビティチームリーダー・藤島健さんだ。「沖縄で見られるクマノミの仲間が、どのくらいいるか知っていますか?」(藤島さん)クマノミと言えば、映画「ファインディング・ニモ」で一躍有名になった「カクレクマノミ」のイメージ。2種類くらいかと思いきや、モニターに映し出された答えは、6種類。世界全体では、さらに28種類もいるそうだ。そんなに覚えきれない...。すると藤島さんが、「よく会える3種」を見分けるための、魔法のフレーズを教えてくれた。「1ハマ、2クマ、3カクレ」だ。ハマクマノミは1本、クマノミは2本、カクレクマノミは3本、それぞれ体に入っている線の数で違いがわかるそう。よく会える「3種類のクマノミ」の見分け方をレクチャー(右が藤島さん)この後のシュノーケリングが、がぜん楽しみになってきた。「1ハマ、2クマ、3カクレ」を心で唱えつつ、ウェットスーツに着替える。外へ出てシュノーケルやフィンの装着法、海中での呼吸の仕方、泳ぐ際のコツをひと通り習った。藤島インストラクターがシュノーケルの装着方法を教えてくれた魚に、貝に、サンゴに、巨大ナマコもいざ、瀬良垣の海へ。雨がパラつく、あいにくの天気だったが、水温はあまり低くなく快適だ。岸に近い浅瀬は水色をしているが、少し進むと突然深くなり、色も深まる。たった一歩で、一気に深くなる藤島さんの先導で、瀬良垣島周辺のクマノミ育成区域へ向かう。その間にもサンゴ礁が眼下に広がり、色とりどりの魚たちが横切っていく。クマノミ以外も、見どころたくさんだ。夢中で海中カメラのシャッターを切っていると、藤島さんが何かを見つけ、取ってきた。巨大なクロナマコだ。海底に、たまに落ちているという。言われるまで気付かなかった。明らかに手のひらに収まらない、巨大クロナマコ藤島さんに魚の名前を教えてもらいつつ、のんびり泳ぐこと15分ほど。クマノミのもとまでやってきた。イソギンチャクの合間を泳ぐ3匹の魚の体には、白い線が3本......3カクレ(クマノミ)だ!藤島さんが近くまで寄って、撮ってくれた「体が大きいのがメス、あとの2匹はオスですね」と藤島さん。レクチャーで習ったことだ。クマノミは「雄性先熟(ゆうせいせんじゅく)」といわれる、オスからメスになる「性転換」を行う習性がある。もともと、ふ化したクマノミは「雌雄同体魚(しゆうどうたいぎょ)」と言って、オスでもメスでもない状態で成長していくのだ。「大きさで順位(性別)が決まる世界です。同じイソギンチャクに住むクマノミの中で、1番大きいメスクマノミがいなくなれば、2番目に大きいオスクマノミがメスになります」(藤島さん)ひとしきり、クマノミを眺めて楽しんだ後、ゆっくり泳いで岸へ戻った。所要時間は、レクチャーを含め75分。あっという間だ。クマノミを守り育て、観光事業にもつなげるカクレクマノミは、一度に500~800匹も生まれるが、無事に成長できる可能性(生存率)は、わずか0.000416%。4回ほど出産し、1匹残るか否かの過酷な世界だ。さらに近年、クマノミは世界的に個体数を減少させているという。「ファインディング・ニモ」の大ヒットを受けての乱獲、海水温の上昇をはじめとした環境変化などが影響している。「クマノミと瀬良垣島の海を学ぼう!」は、クマノミの「保護と育成」の役割も担っている。同ホテルが21年6月から推進している「瀬良垣島・クマノミ育成プロジェクト」の一環であり、瀬良垣島周辺でクマノミを守り育てながら、持続可能な観光の仕組みを作ることを目指しているのだ。「海の豊かさを守ろう」は、SDGs(SustainableDevelopmentGoals)の目標の一つでもある。ハイアットリージェンシー瀬良垣アイランド沖縄のザ・アイランドにある、クマノミの水槽とプロジェクトの説明ボードクマノミの育成は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)で、海洋気候変動の研究を行うティモシー・ラバシ教授が監修している。記者がシュノーケリングで見たクマノミは、OISTの臨海研究施設内にある水槽で孵化・飼育し、放流された稚魚だ。「クマノミと瀬良垣島の海を学ぼう!」のレクチャーでは、OIST施設内の水槽でクマノミが生まれ、成長する様子を動画で見ることができる。単に育てるだけでなく、海水温や二酸化炭素濃度といった、各環境の変化にクマノミがどう適応するか、研究も兼ねているのだ。海へ放流後も、クマノミの生息状況を定期的に調査し続けているという。海洋生物や環境への理解を深めたうえで入る海は、これまでと違って見えた。藤島さんによると、「クマノミと瀬良垣島の海を学ぼう!」には、親子連れの申し込みが多いそうだ。楽しいだけでなく、学びや気付きも得られる思い出作りに、一役買ってくれるだろう。
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