2024年 4月 16日 (火)

京都の赤飯 酒井順子さんが「餅は餅屋」の言葉で思い出す老舗

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   dancyu 6月号の特集「京都で呑む、食べる、つくる。」に、酒井順子さんが赤飯のエッセイを寄せている。タイトルは「京都でお赤飯いうたら、」と思わせぶり。ちなみに酒井さんは東京の生まれである。

「一年を通して餅を常備している餅好きの私は、おこわの類にも目がありません。そんな私が密かに"京都の名物"と認識しているもの、それがお赤飯なのでした」

   京都に住む彼女の友人曰く...〈京都でお赤飯いうたら、やっぱり鳴海さんやね。お祝い事とか行事とかある時には、みんな鳴海さんにお赤飯買いに行くえ〉

   「鳴海さん」とは上京区にある鳴海餅本店のこと、1875(明治8)年創業の老舗らしい。京都のデパ地下にも売場がある。酒井さんも京都に赴くたびに、季節の餅菓子と赤飯を買って帰京し、家で食すのが楽しみだったという。

「丹波大納言の小豆が宝石のように輝くお赤飯に、まずは添付の胡麻塩をぱらり...白胡麻であるところがまた、都の雅を感じさせます。わずかな塩味が引き立てる小豆と糯米(もちごめ)の甘味を堪能すれば『餅は餅屋』との言葉と共に、京都の思い出が脳裏に浮かんでくるのでした」
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本店のホカホカを

   秋のある日、酒井さんが堀川通を歩いていたら、観光地でもないのに街角に人だかりができている。いま思えば、それが鳴海餅本店だった。お目当ては季節限定の栗赤飯。行列は地元の人たちが中心のようで、みんな大量に何パックも買っている。旅人の酒井さんはそうもいかず、少量のパックをお土産に一つ購入したそうだ。

「包みはまだホカホカ。辛抱たまらなくなったので散歩を中断し、宿に戻って包みを開けると、おなじみのお赤飯のあちこちに、渋皮をほどよく残した丹波栗がごろり。盆と正月が一緒に来たかのような見た目です...おかずも無しにすっかり平らげていました」

   栗が赤飯を、赤飯が栗を引き立てる「見事なマッチング」に感動した酒井さん、以来、秋が来るたびにデパ地下ではなく本店に足を運ぶようになったという。

「日本人にとってはハレの日の食べ物である、お赤飯。長いあいだ都市であり続けた京都には多くの祭礼や行事が存在し、だからこそ『お赤飯といえば、ここ』というスペシャルなお赤飯も育まれたのでしょう」

特集が成立する土地

   dancyuの特集は「今日は、京都で4時から呑む!」というのが裏タイトルで、実質的には左党のための京都ガイダンス。「呑めるおかず21皿」といった自作用のレシピまで付いている。その中で、アルコール度の低い酒井エッセイは異彩を放つ内容だ。

   とはいえ、もともと食いしん坊が多い読者たちは、たとえば「栗の味と食感がお赤飯のもっちり感に映え、実りの季節を感じさせます」といった、美味しそうな表現にうなずきながら読み進めるのだろう。

「やはり本店で炊きたてを買うと、気分が上がるというものです」
「京都盆地の深層から汲み上げた水で炊いた都(みやこ)のお赤飯を食せば、特にめでたいことはなくとも、めでたい気持ちになってくる」

   こうした文章を読むと、味のかなりの部分が実は、食す時の気分や予備知識に左右されることがわかる。「京の味」と聞けば雅や洗練を感じるし、評判の老舗と知れば不味かろうはずがないと思う。赤飯だけでなく、他の食品や食材にもそれぞれ「〇〇といえば××」という老舗や有名店が存在するのだろう。これも長い歴史が紡いだ知的財産だ。

   思うに、主要誌の特集で「△△で呑む、食べる」が成立する土地は多くない。反論歓迎で挙げれば、京都と同様、独自の食文化という意味で大阪、そして地理的優位が大きい北海道と沖縄か。東京は漠としており、ひと括りにできない。特集を組むなら「銀座で呑む」「渋谷で食べる」と細分化するしかない。

   もちろん、47都道府県それぞれに旨いもの、旨い酒がある。ところがここ数年、食雑誌で目につく特集といえば「家で呑む」ばかりだった。

   そろそろ本場で呑みたい、プロが供するホンモノを食べたい。

冨永 格

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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