怪人ひしめく「悪の秘密結社」 ツイッター界の「必要悪」アカウント

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【ツイッターは仕事!企業公式「中の人」集合(25)】

   「悪の秘密結社」が日本に実在する。れっきとした株式会社で、福岡県福岡市にて「特撮映像作品を中心に物騒な隙間産業」を展開しているという。

   公式ツイッターもある。どれほど悪と秘密に満ちたタイムラインになっているのか、そもそもつぶやけることはあるのか――。フタを開けると、悪は悪でも「必要悪」のアカウントだった。

  • 悪の秘密結社・脚本担当のシャベリーマン(c)AHK
    悪の秘密結社・脚本担当のシャベリーマン(c)AHK
  • 悪の秘密結社・脚本担当のシャベリーマン(c)AHK

「フォロワーのフォロワー」に届け

【悪の秘密結社】2016年3月の創業とほぼ同時に、アカウントを開設。企画・制作している特撮ドラマやイベントの宣伝、所属している怪人の紹介などを行う。福岡県のご当地ヒーローとも交流しており、特に「キタキュウマン」とは腐れ縁。フォロワー数は5.6万人。

   取材に応じたのは、悪の秘密結社・脚本担当の「シャベリーマン」。アカウント開設当初から運用を担当しており、幾度もの「バズ」を経験している。

   例えば、20年2月21日の投稿。コロナ禍で相次ぐ「イベント中止」に対し、「中止ではなく延期の判断を」と訴えたツイートが6万を超える「いいね」を獲得した。延期になれば、契約書をもって銀行に話を通すことができ、資金を借り入れて事態収束まで耐え忍べる、との説明だ。イベント業の会社として、何より「人々が言いにくいことを言うのが、悪の秘密結社の仕事」と捉え、意見を表明した。

   シャベリーマン曰く、企業のツイッターは「アカウント(社・サービス・商品)名と大喜利」が整っていればバズる。これらの要点を押さえた、わかりやすいツイートがある。19年6月に、社の近くで高級宝飾ブランド「カルティエ」の指輪を拾ったときのエピソードだ。一瞬、悪の心がよぎったものの、指輪の内側に刻印があり、誰かにとって大切なものだと察したシャベリーマン。中央警察署に「これから怪人が指輪を届けに行く」と一報入れ、自ら職員に手渡したのだった...。

「良いことをしたら『えっ、悪の秘密結社なのに?』とギャップを感じて喜んでもらえるし、悪いことをしたら『さすがは悪の秘密結社!』と言われる。ありがたいポジションですよね」

   また、特撮ファンや一部の人だけが楽しめるのではなく、多くにとって共感しやすいツイートにすることも重要だ。「自社を知らず、興味がない人まで『面白いから他の人に見てほしい』と、拡散したくなる内容にできるかどうか」が焦点になる。

   「フォロワーの、フォロワー」を見据え、脚本と同じ感覚で投稿を考えているそう。ユーザーが、どのツイートをきっかけに興味を持ってくれるのかコントロールできない以上、「例えば、1話からじゃなく、25話から読んだ人でもハマれるように考えないといけない」。何となくつぶやくのではなく、一つ一つのツイートをよく練って、タイムラインを管理するのがポイントだという。

ヒーローに憧れた過去

   順風満帆なアカウントに見えるが、シャベリーマンには悩みがある。数年前と比べて投稿頻度が落ち、気の利いた面白ツイートができなくなって、バズることが少なくなっているのだ。

   理由は、「怪人の手が足りない」から。当初は「悪の秘密結社」アカウントだけに時間をかけられたが、「シャベリーマン」の公式ツイッターも18年8月に開設したことで管理場所が増えたうえ、代表作「ドゲンジャーズ」が誕生してからは映像制作や宣伝に忙しくなった。嬉しい悲鳴ではあるが......タイムラインを管理できていないのでは。

「昔は、一般人の結婚式で父親役やらせてもらうとか、とにかく何をしてるのかわからない『ミステリアスな会社』と思われていたはずなので、RTされやすい傾向にあったのだろうと」

   気になるワードをポロッとこぼすシャベリーマン。ドゲンジャーズは福岡を舞台に、ご当地ヒーローが活躍する特撮作品で、悪の秘密結社の怪人たちも数多く登場するため、公然の秘密結社になりつつあるのかもしれない。

   そういえば、なぜ「悪の」秘密結社なのだろう。「善(ヒーロー)の」秘密結社を立ち上げなかったわけはあるのか。尋ねると、シャベリーマンは己の過去をポツポツと語り始めた。

「もともと、剣道をやっていまして。学生時代に、ヒーローとしてアクションショーに出演していた経験があります。終演後にノートを持って自ら先輩のもとへ行き、ダメ出しや反省点を書き留めるくらい、熱心に取り組んでいたんです」

   まじめだ。しかし、そうした血の滲む努力の果てに、「アクションがあまり上手くなく、ヒーローとしてのセンスもない」と思い知った。観衆の視線をほしいままにし、舞台のセンターでスポットライトを浴びても臆さず立ち振る舞う度胸とセンスが、ヒーローには必要だという。

「ヒーローは減点方式で、本当に大変なんです。ちょっとつまずいただけでも『ヒーローなのに』と残念がられてしまう。悪役だったら、『ワハハ!ドジだな~』くらいで終わるのに」

   自分にヒーローは務まらない――。だが、そこで舞台を降りなかった。アクションショーではなく、芝居メインのキャラクターショーにおける悪役こそが、己の適所だと気づいたのだ。ヒーローを引き立て、ショーを盛り上げる、必要悪。「表舞台の裏方」を標榜する、悪の秘密結社の企業理念に出てくる言葉だ。

「正しい倫理観のもと世界に『必要悪』を提供し、キャラクターコンテンツの成長とそれらを『支える人』を支え、子供の笑顔を創造する」

   仕事でも、ツイートでも、本当の悪事は働かない。だが「正義」とは一歩引いた立場だからこそ、「多くの人が言いづらいと感じていること」を言い、見る者を笑わせ、時にハッとさせられる。ユーモアあふれる悪のマインドと、まごころがカギだ。

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