週刊朝日(2月24日号)の「ああ、それ私よく知ってます。」で、春風亭一之輔さんが人気番組「笑点」(日本テレビ)の大喜利デビューまでを明かした。師匠が新メンバーと発表されたのは2月5日(日)の放送。番組は通常2~3週分をまとめて収録するそうだが、今回は情報漏れを警戒し、放映前日の4日に収録する周到ぶりだった。一之輔さんが週朝の原稿を執筆したのはまさに収録日の夜とのこと。なんとも微妙なタイミングである。もちろん、オンエア前に編集部に明かすわけにはいかない。「新メンバーが明日2月5日の放送で発表されるというので、世間のその予想合戦は佳境に入っている。はーい、私でしたー。ごめんなさいねー、黙ってて...現時点(4日夜=冨永注)で知ってるのは、私と『笑点』に関わるごく少数のみ」連載の締め切りは本来2月3日だったが、筆者はこの一大事をどうしても最新号にねじ込みたいと考えた。そのためには、詳しい事情を明かさないまま、原稿の提出を5日17時30分の放送開始まで待ってもらうしかない。「案外注目されているこのネタを週刊朝日にリークすることも考えた。なにしろ5月には休刊。私も『最後の恩返し』をさせて頂こうか...とも思ったが、『いや、週刊朝日にはそんな世話にはなってなかったな(棒)』と思い直す」そもそも、番組スタッフからは「親兄弟にも漏らすな」と釘を刺されていた。茨の道を選ぶそこで一之輔さんは、担当編集者K氏に締め切りの内実を尋ねた。「嫌な書き手です」と自嘲しつつ、そのときの会話が落語よろしく再現される。一之輔「本当のリミットはいつ?」K「日曜日の昼...」「いやいや、それくらいに渡した時はなーんか平気そうでしたよ」「日曜夕方...」「もうひと声!」「月曜...朝...ですかね...でも何かワケがあるんですか?」「別に。なーんか遅れそうな気がしてね」「気がするなら早く書いて!」「今回『笑点』のオファーがきて正直相当悩みました。『おめでとう』と言う人もいるだろうし、落語好きや同業者からは『なにも笑点出なくてもいいんじゃないの?』と冷ややかな反応もあるかも。決して『おめでたい』ことではないのですよ」なにせ人気の長寿番組。レギュラーになって売れた噺家もいるが、一之輔さんはすでに高座での評価を固め、寄席のチケットを取るのが難しい実力者だ。テレビでこけた時の副作用を思えば、是が非でも出たいということではないのかもしれない。「茨の道を選んじまったな、と思います。この決断でこれからの人生が少し『面倒くさいが楽しいかんじ』になって、全ては本業の落語に繋がるといいなと思います」この部分はコラムの核心、師匠の覚悟がうかがえる。さらに軽いオチが続く。「ということでKさん、この原稿は2月5日日曜日17時35分に送信します。イラストのもりい先生(連載の挿絵を担当するもりいくすお氏=冨永注)、お待たせしてすまんです。今度奢ります」面倒だが楽しい週刊朝日は、サンデー毎日と並ぶ日本最古の週刊誌である。先ごろ、今年5月末での休刊を発表した。1922(大正11)年に創刊、昨年100周年を祝ったばかりで、出版業界ではそれなりの出来事だ。作中にもあるように、一之輔さんには担当編集者が「上司からお話が...」と電話してきた。他の連載陣にも同様の連絡があったはずだ。一之輔さんの連載には「演題」がつき、今回は〈発表〉だった。同じ発表でも、掲載誌の休刊と違い、大喜利のレギュラー入りは慶事である。ご本人は「決して『おめでたい』ことではない」と謙遜するが、レギュラーメンバーは6人のみ。噺家にも得手不得手があり、全員が当意即妙に対応できるわけではない。番組側は、一之輔さんなら一般視聴者にも必ず受けると評価したのだろう。応諾の先には「茨の道」が延びている。本作は、笑点レギュラー入りの覚悟と連載の締め切りを巧みに絡め、筆者と編集部の攻防を面白おかしく再現した。一般的に、重い話を軽く書くのは難しい。その点「面倒くさいが楽しいかんじ」という表現は、簡潔にして秀逸である。冨永格
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