2024年 4月 25日 (木)

師匠の至福 杉本昌隆さんは弟子の快進撃で充実の日々

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   週刊文春(4月27日号)の「師匠はつらいよ」で、将棋棋士の杉本昌隆さんが連載100回を振り返りながら、幸せな近況を記した。その間にも弟子の藤井聡太さんは勝ちを重ね、竜王など六冠を手中にしたうえ 第81期名人戦で「七冠」に挑んでいる。

   文春の連載が始まる前、担当編集者のM氏とこんなやり取りがあったそうだ。

「毎週ですか? 多分十回ぐらいなら書けますが...」
「いや、せめて単行本になりそうな回数までは...」

   単行本に仕立てられる分量...当時の杉本さんは勝手に30回程度と思い込んでいたが、あとで100回分は必要だと知った。「いきなりその数字を言われたら、おそらく途中で投了していただろう」と振り返る。

「連載を続けるうちに一つだけ分かったことがある。苦しんだ末の原稿より、自分も楽しんだ方が間違いなく納得いく作品に仕上がるものだと...将棋の序盤・中盤・終盤と、文章の起承転結には共通点があると思っている」

   調子がいい時は「ああ、このネタは筆が乗るな。仕掛けからどう勝ちにするかワクワクするなあ」と、勝ち将棋の盤面を読む心境になるそうだ。 以前は「〇〇君のお父さん」のような扱いで「藤井君の師匠」と呼ばれた杉本さん。

「きっと私の名前もご存じないのだろう。むべなるかな...だが連載百回は人としての存在感や重みを増す。そして今の私はこう呼ばれるようになった。『藤井さんの師匠』...うん、藤井竜王もニ十歳に成長したからね」

   こうした自虐ネタも連載のお約束、というか味になった。

  • 「あの藤井の師匠」という、失うことのない「永世タイトル」
    「あの藤井の師匠」という、失うことのない「永世タイトル」
  • 「あの藤井の師匠」という、失うことのない「永世タイトル」

弁当の手配

   いまや将棋界の至宝である 出来すぎた弟子についての記述が続く。

「十四歳の時から受けていた注目度の重さは、そばで観ていても想像しがたい。数え切れない程の人からの期待や関心、強い思いなどを感じていたはずだ...スクスク成長してくれたのは、ご家族始め、ファンや周囲の大人たちによるところが非常に大きい」

   杉本さんは本作を、ご自分の将棋研究室のパソコンで書いている。折しも隣室では、藤井竜王と永瀬拓矢王座が談笑している。コロナで途切れていた二人の研究会が復活し、対局後の感想戦をしていたのだ。将棋ファンにすれば、なんと羨ましい世界だろうか。杉本さんも「この空間で書くとエッセーが浄化される気さえする」という。

   そんな夢の時間、師匠は棋界をリードする二人にきわめて現実的な提案をする。「藤井君、永瀬君...そろそろ昼ご飯にしない? 弁当が冷めるから」と。

「ちなみにこの二人が自分たちで弁当を買いに行くと人目を引きすぎる。なので、弁当の注文や配達は師匠の私の役目である。ううむ、本当につら...いや楽しいぞ。充実した日々に感謝である」

   ここでも自虐を絡めているが、末尾の一文こそ筆者の本音だろう。

冨永格(とみなが・ただし)
コラムニスト。1956年、静岡生まれ。朝日新聞で経済部デスク、ブリュッセル支局長、パリ支局長などを歴任、2007年から6年間「天声人語」を担当した。欧州駐在の特別編集委員を経て退職。朝日カルチャーセンター「文章教室」の監修講師を務める。趣味は料理と街歩き、スポーツカーの運転。6速MTのやんちゃロータス乗り。

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