はげ山のハロウィーン

   私の子供時代には存在さえ知らなかったのだけれど、今はすっかりおなじみであるかのような季節の習慣が、10月31日の晩のハロウィーンです。起源とされるケルト色の強い国、イギリスやアイルランドから遠い日本でも、ハロウィーンはすっかりおなじみですが、これは、もちろんアメリカの影響です。クリスマス前の「西洋的なイベント」として、アメリカの宣伝力で輸出されている側面が強く、フランスなどでも、その翌日の11月1日の「諸聖人の休日」をキリスト教起源の祝日として古くから制定していますが、ハロウィーンという習慣は、カトリックの強いフランスでは「アメリカ商業主義的なもの」として、嫌う人たちもいます。しかし、クリスマスなども宗教行事とは大きく離れてすっかり商業化されているわけですから、いまさら目くじらたてても...ということで、クリスマス前のイベントとして、ハロウィーンは、フランスでも日本でも、すっかり人々の日々の話題の中に定着してしまっていますね。

ジャック・オ・ランタンに包囲されるムソルグスキーの楽譜
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起源はケルトの収穫祭「死者の日」

   今日は、ハロウィーンにふさわしいクラシックの名曲、「展覧会の絵」などの作曲者として知られるロシアの作曲家、ムソルグスキーの代表曲、「はげ山の一夜」をおすすめします。

   ハロウィーンは、もともと、ケルトの収穫祭、「死者の日」から来ているといわれています。日本のお盆のように、先祖が蘇ってくる、と考えられていたのです。キリスト教がヨーロッパ全体に布教されるときに、それらの異教の祭を上手に取り込んでゆき、収穫祭こと「死者の日」は「キリスト教の諸聖人の祝日」となったものの、「その前の晩に、死者も蘇るが、魔物も一緒にやってきてしまう、だから魔除けで仮面を被る」、という習慣は各地に残り、教会行事とは独立して、民間のお祭りとなった...といわれています。確かに、今や、世界のハロウィーンに宗教色はほとんどないですね。

   同じく、キリスト教以前のヨーロッパの宗教が祝っていたとおぼしき、6月の夏至の祭...こちらは「聖ヨハネ祭」としてキリスト教化されましたが、その前夜にも魔女や妖精などが現れる、とされていて、シェイクスピアの戯曲や、メンデルスゾーンの劇音楽「夏の夜の夢」の題材となっています。ムソルグスキーのこの曲も、その伝説を下敷きにしたロシアの小説や戯曲にヒントを得て、書かれています。

「オリジナル版」はお化けが出る暗闇にぴったり

   ロシアの『力強き五人組』、という、新しいクラシック音楽の伝統をつくろうとしたグループの一員だったムソルグスキーは、この曲を生涯にわたり、何回も改訂します。しかし、この曲が広く知られるようになったきっかけは、『五人組』の世話役たるリムスキー=コルサコフという作曲家が、編曲版を作ってからでした。ムソルグスキーの音楽は、力強い一方、粗野な面が多々あったのです。近年では、それらの「オリジナル版」の演奏も増えてきましたが、より荒々しいオリジナルバージョンを聞いていると、ハロウィーンにもぴったりだなあ...という気がします。祝祭前夜に、とてもとても怖い思いをする、というお話ですから、ハロウィーンのお化けが出る暗闇、のイメージにぴったりなのですね。

   ところで、この曲は、何回も改訂されているにもかかわらず日本語の邦題は、いつも「はげ山の一夜」とされていて、頭髪を気にされる諸氏からは、すこぶる評判がよくありません。この名曲の題名を聞くたびに、嫌な思いをされるのだそうです。こちらの訳も、そろそろ改訂しては...と思いますが、「木が大変少なくなった山での恐ろしい一夜」という題名だと...やっぱり、間延びがして、ピンと来なくなってしまいますね...。

本田聖嗣

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