新聞記者が2年間の徹底取材 ハワイで見えた「日米同盟」の真実とは

   ■アメリカ太平洋軍 日米が融合する世界最強の集団(梶原みずほ著、講談社)

   ■国際政治-恐怖と希望(高坂正堯著、中央公論新社、改版)


   書店に実際にいって本の売り場を眺めるのは楽しいひとときだ。思わぬ本に出会う偶然の楽しみは何物にも代えがたい。興味を惹かれた題名をみて、本を手にとり、著者の想いがわりと率直に出る「あとがき」を読むことで購入するかどうか決める人も多いと思う。

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アメリカ国防総省は検閲をしなかった

   「アメリカ太平洋軍~日米が融合する世界最強の軍団」(梶原みずほ著 講談社)も、あとがき(本書では「おわりに」)を読めば、あまり日本でなじみのない「アメリカ太平洋軍」の重要性、そこにアクセスするまでの朝日新聞記者である著者のたいへんな努力、「論ではなく、リアリズムに基づいた日米同盟を、足元のハワイから伝えたい」と説得を重ね、様々な経過をたどり、アクセスの許可を得た。出版についてアメリカ国防総省は検閲をしなかったという。いろいろ審査して一度許可した後は、許可した人物を信頼し、事後的に検閲をしなかったという対応について、アメリカという国のある種のフェアネスさに感じ入る。

   著者は、いう。

「アメリカ軍の内側から見えた世界と日米同盟は、外側から第三者として見てきたそれらとは大きく違い、新鮮だった」
「日本人にとってハワイは身近な外国であり、毎日平均して5000~6000人が飛行機から降り立つ。1941年の真珠湾攻撃という悲しい歴史の記憶があるにしても、いまの日本人にとっては身近なリゾートであり、日系人の多いハワイ社会も日本人観光客を歓迎してきた。しかし、ハワイにはもう一つの顔がある。ハワイが私たち日本を含む東アジアの安全保障に直結していることを示したかった」

   そして、はしがきに戻る。「アメリカ国防総省の組織に身を置き、2年間をアメリカ・ハワイで過ごした。本書はアメリカの首都ワシントンDCの視点から一歩離れ、ハワイに司令部を置く太平洋軍というアメリカ最大の地域統合軍の内側に身を置いて初めて見えてくる日米同盟の姿に光を当てたものである」という。これで購入を決断だ。

   アメリカは、世界帝国であり、太平洋地域の普段のことは、このハワイでほぼ決まっている。語学も堪能な著者のハワイでの日常生活をしながらの取材を通じた、太平洋軍司令官の重要性が生き生きと描かれる。アメリカの外交政策を担う国務省のスタッフも、この太平洋軍内に数多くいて仕事をしていることにはびっくりした。また、諜報情報などの共有を約束する「ファイブアイズ」をアメリカとともに構成する豪、加、英、ニュージーランドの軍人たちも多数働く。オーストラリア(豪)との親密度は高い。ハワイはインテリジェンスの一大拠点でもある。映画でも描かれたが、スノーデンが働き、機密情報を外に持ち出した場所はハワイだ。一方、ハワイに、中国の在外公館は認められていない。

「戦争は不治の病であるかもしれない」

   また、本書の主要参考文献の1つに、高坂正堯氏の「海洋国家日本の構想」(中央公論新社)があげられている。この本については、2012年11月8日掲載のこのコラムで紹介した。

   最近、絶好調の中公新書では、この高坂氏のもう1つの不朽の名著「国際政治―恐怖と希望」が、2017年10月に改版され、読みやすくなって書店の書棚に並んでいる。

   帯には、「戦争という人類の『不治の病』を克服する」とある。本書の終章の最後で、「戦争はおそらく不治の病であるかもしれない。しかし、われわれはそれを治療するために努力し続けなくてはならないのである。つまり、われわれは懐疑的にならざるをえないが、絶望してはならない。それは医師と外交官と、そして人間のつとめなのである」という。このような認識をもちつつ、「アメリカ太平洋軍」を読めば、その味わいはまた一段と深まると思う。

経済官庁 AK

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