はなまるうどん中国撤退の裏側 刀削麺にビャンビャン麺、蘭州拉麺と激しい麺競争

   セルフ式讃岐うどんのチェーン店「はなまるうどん」が、中国から撤退する。日本では「安価な外食チェーン」の代表格であるセルフ式うどんチェーンだが、中国の麺料理店はさらに安く、価格競争で苦戦が続いていた。新型コロナウイルスの感染拡大で中国の外食チェーンが総じて打撃を受けていることもあり、完全撤退を決断したようだ。

   はなまるうどんの中国撤退は、親会社である吉野家ホールディングスが8月末の臨時報告書で公表した。

はなまるうどんの日本国内店舗(写真:アフロ)
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価格はむしろ高かった

   はなまるうどんが中国に進出したのは2011年。2010年に上海万博に出店した際に好評だったことから、進出を決めたという。上海を皮切りに青島や武漢、深センなど最大5都市に展開し、2018年9月には37店舗まで増やした。

   だが、中国では刀削麺(山西省)、ビャンビャン麺(陝西省)、米粉(雲南省)、蘭州拉麺(甘粛省)など多種多様なご当地麺が庶民の食として定着しており、価格も日本円にして200円前後と安い。筆者が2010年代に働いていた現地の大学では、教職員食堂に専門の「ラーメン師」がいて、打ちたての麺を使って好みの具材でラーメンを作ってくれていた。

   はなまるうどんの日本市場での強みである「セルフによる提供の早さ」「安さ」「讃岐うどん」は、中国人消費者に響かず(価格は中国人目線ではむしろ高い)、非常に競争の激しいジャンルであることは、はなまるうどんも過去のメディア取材で語っている。

   飲食ビジネスメディア「フーズチャンネル」2014年の記事では、はなまるうどんが中国で10店舗を出店した一方、既に5店舗が閉店したことも明らかにされ、担当者が「中国は地域ごとに嗜好も違えば、客層も非常に幅広いということは頭ではわかっていたつもりですが、認識が甘かったです」と反省の弁を述べている。

   また、同記事では、「お店を増やすにつれ、店舗ごとの従業員の教育レベルに差が生まれてしまい、サービスや商品の品質にばらつきが出てしまいました」と苦労話も紹介されている。「店ごとに品質やサービスに差が出る」点は日本企業に限らず、中国企業もチェーン展開にあたって必ずぶつかる壁と言われる。

   はなまるうどんは、中国向けメニューを開発するなど経営努力を続けていたが、徐々に店舗を減らし、2022年夏時点では上海で2店舗を営業するのみとなっていた。

「ゼロコロナ政策」が決定打

   日本の人口減をにらみ、中国市場に進出する外食チェーンは少なくない。しかし麺類については、はなまるに限らず苦戦する企業が多い。2000年代には一風堂やリンガーハットが複数店舗を展開したものの、短期間で撤退。焼きギョーザや麺類を展開する「餃子の王将」も2005年に東北部の大連市に進出して「ギョーザの逆輸出」と話題になったが、赤字が累積し2014年に現地子会社の解散を発表した

   うまくいかなかった理由の多くは、はなまると同様「現地の需要をとらえられなかった」「マネジメントの混乱」だ。麺類で数少ない成功事例が「サイゼリヤ」だが、こちらは中国でも割高なイメージのあるイタリア料理にカテゴライズされ、価格競争力があったのが成功の要因の一つと言われる。

   はなまるうどんの撤退は、新型コロナウイルス流行の長期化が決定打になった面もある。「ゼロコロナ政策」を続ける中国は、感染者が出るとエリアごと封鎖され、外出や営業を制限される状況が今も続く。コロナ禍で飲食産業全体が苦境にあり、はなまるうどんの親会社である吉野家ホールディングスが展開し、中国で500店舗以上を展開する吉野家も、中国事業は不振が続いている。外食産業はどの企業にとっても、海外展開よりも足元を固める時期にあるようだ。

【連載】浦上早苗の「試験に出ない中国事情」

浦上早苗
経済ジャーナリスト、法政大学MBA兼任教員。福岡市出身。近著に「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。「中国」は大きすぎて、何をどう切り取っても「一面しか書いてない」と言われますが、そもそも一人で全俯瞰できる代物ではないのは重々承知の上で、中国と接点のある人たちが「ああ、分かる」と共感できるような「一面」「一片」を集めるよう心がけています。
Twitter:https://twitter.com/sanadi37

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