2024年 4月 16日 (火)

「本音マーケティング」の時代到来! 「デイリーポータルZ」の事例に学ぶ

   今から数週間前、9月末のこと。あるウェブサイトの運営実態に関する記事が、ネット上で話題になりました。「どうでもいいことを真剣にリポートする日刊更新サイト」である@ニフティ「デイリーポータルZ」(DPZ)です。

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   月間1800万PVを誇るこの人気サイトは、これまで無料で運営されてきたのですが、本社から「お金をもうけろ」との指示を受け、有料携帯サイトの開設を発表したのです。

   普通であれば、これまで無料だったサービスを一部でも有料にするには、ユーザーから相当の反発を招きかねないものです。しかし、今回はそのようなことはなく、ファンを中心にむしろ応援する声が多数あがりました。

「なんかいても立ってもいられなくなったので入った。100円だし」
「デイリーポータルZ 不況に負けずがんばれ~。デイリーなら有志の広告募っても手を挙げる人いるんじゃないかな」
「全力で支援。DPZ潰したらnifty解約する」

   人気サイトとはいえ、なぜ、ここまで応援してもらえたのでしょうか。それは、ひたすら同サイトが「本音が見える」情報開示と、「共感を呼ぶマーケティング」を実践してきたからだと考えます。

どの広告よりも強力だった「ハトが選んだ保険に入る」企画

「どうでもいいことを真剣にリポートする」DPZ
「どうでもいいことを真剣にリポートする」DPZ

   このサイトはこれまで、数多くの独創的な企画でユーザーを魅了してきました。たとえば「知らない人の結婚式の2次会に混ざる」という企画。ややもすれば顰蹙と捉えられかねない突飛な行動ですが、きちんとインスタントカメラを持っていて、参加者全員の写真と感謝メッセージを作って届けて、感謝されて退席した企画はエンターテイメント性に富み、見事としかいいようがないものでした。

   また、この夏、ライフネット生命保険が協力した「ハトが選んだ生命保険に入る」という企画も反響を呼びました。アクセスやブックマークをたくさん集めただけでなく、実際に記事をきっかけに生命保険に加入した人が多数おり、非常に高い効果を示したのです。

   不思議なのは、この企画は先方からの持ち込みで、当社は一切広告料などを支払っていないこと。そして記事には商品や会社のセールスポイントを訴求する内容はほとんど含まれておらず、「おバカな企画に老練の社長が真剣に付き合う」というものに過ぎなかったのです。

   にもかかわらず、記事への反響が大きかったのは「どうでもいいことを真剣にリポートする」というDPZの姿勢と、それに真剣に付き合った当社の社長の姿勢が、多くのユーザーの共感を呼んだからではないでしょうか。

「大赤字」のコスト構造を開示

   このようなDPZが有料サイトへの移行を発表するにあたっては、「ユーザーのことを思うと、有料化は悩ましい」という名物編集者の悩みをインタビュー形式(さみしげな後姿の写真付)で公開するとともに、大赤字で運営されている実態をつまびらかにしたのです。曰く、収入が月80万円に対して、運営コストが月800万円だというのです。

   これには2つの効果があったと思います。通常は意識することがない、メディアが作られていく際にかかるコストの実態を、当事者の悩める心境とともに、ユーザーに認識させたこと。加えて「自分たちが助けなければ」という意識を芽生えさせたことです。

   私たちライフネット生命も、今からちょうど1年前、これまでブラックボックスとなっていた生命保険の「原価」を開示したことで、反響を呼びました。ここには、私たちの様々な思いが込められており、同時に社長の出口がその思いをブログにて公開しました。

   DPZの「有料化」の試みは、圧倒的な資金力で消費者に広告を浴びせてモノを「買わせる」時代から、その商品サービスが作られていく過程や想いを明らかにし、ユーザーに共感してもらってはじめて「選ばれる」時代が到来していると感じさせられる、いい例だったと思います。

岩瀬 大輔

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岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険・代表取締役副社長。1976年生まれ。幼少期をイギリスで過ごしたのち、開成高校を経て、東京大学法学部卒業。在学中に司法試験合格。ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ホールディングスを経て、ハーバード経営大学院(HBS)に留学。日本人で4人目となる上位5%の優秀な成績(ベイカー・スカラー)を修めた。帰国後、元日本生命の出口治明氏と二人三脚で、今までの常識を打ち破る新しい生保会社「ライフネット生命保険」を立ち上げ、2008年5月に営業を開始した。近著に『東大×ハーバードの岩瀬式!加速勉強法 』(大和書房)、『超凡思考』(幻冬舎、伊藤真氏との共著)。
「生活者にとって便利でわかりやすく、高品質な生命保険サービスを提供する」という理念のもと、インターネットを主要チャネルとして、新しい生命保険を販売している。既存の保険会社に頼らない「独立系の生命保険会社」として戦後初めて免許を取得し、2008年5月に営業を開始。業界のタブーとされた「保険料の原価」を開示するなど新しい試みに挑戦している。
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