2024年 4月 25日 (木)

業績の上がらない正社員 契約社員に「降格」できるか

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   業績悪化を理由に、正社員を契約社員に切り替える会社が増えている。転職先が見つけにくいご時勢では、会社の言い分を飲まざるを得ない人が多いのではないか。

   一方で、社員の働きがよくないので契約社員に「降格」するケースも、以前より頻繁に行われているようだ。ある会社では、部下の「開き直り」にどう対抗したらよいか上司が頭を悩ませている。

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「オレの同意が必要」と聞こえよがしに言うが

――広告会社の営業部長です。部下のA君の処遇について頭を悩ませております。
   A君は大学在学中から当社でアルバイトをしており、卒業後は就職先が見つからなかったこともあって、契約社員として入社して働き続けていました。
   昨年、経営状態もよくなったので、A君を含む比較的キャリアの長い契約社員数人を正社員にしました。それに伴い、仕事の比重も社内業務や既存顧客のケアから、新規顧客の開拓へとシフトしていきました。
   しかしA君は、契約社員の働き方に慣れてしまっているのか、新規開拓の成果が上がらず、努力の跡も見られません。指示したことには従いますが、自分で考えて工夫することがまるでダメ。私が、

「そんな調子じゃ、来年は契約社員に降格だぞ」
とおどかしても、最初こそバツの悪そうな顔をしていたものの、最近では平気な顔をして開き直り気味になってきました。
   どこで知恵をつけてきたのか、「労働条件の不利益変更は、労働者の同意が必要なんだ。俺がウンと言わなきゃ降格なんてできない」と聞こえよがしに言っています。
   こちらも下手なことをしてトラブルを広げたくないのですが、こういう場合には、どうやって対抗すればよいのでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「降格」は誤解。「解雇」と「再雇用」である

   部長もA君も「降格」と勘違いしているようですが、中身は「正社員の解雇」と「契約社員としての再雇用」です。契約期間を定めない正社員と、期間を定めた契約社員では、契約内容が異なりますので、いったん正社員を解雇することが必要です。

   とすると、論点は「解雇できるか否か」ということになりますが、A君の同意を得られば確かに可能です。また、就業規則の解雇事由に「勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員としての職責を果たし得ないと認められたとき」などと定めてあり、A君がそれに当てはまると判断されれば解雇できます。

   ただし本当に「勤務状況が著しく不良」なのであれば、解雇した後に引き続き働いてもらうメリットは会社にないはずです。会社が無理やり契約内容を変更したつもりでも、矛盾を突かれて解雇を無効とする訴えを起こされるおそれもあるので注意が必要です。なお、正社員の身分を維持したまま資格や職位を下げる場合には、正しく「降格」ということができます。

臨床心理士・尾崎健一の視点
社内異動か、期限付きで仕事のやらせ方を工夫するか

   どういう理由でここまでやる気がなくなったのか分かりませんが、解雇の前に社内異動の余地を検討してみる必要があるでしょう。契約社員のころは仕事ぶりが認められて社員任用となったのでしょうから、得意分野を活かせるポジションに置くことで働きぶりが大きく変わるかもしれません。もし安易に任用した問題があったのなら、社員任用の基準やルールをあらためて作っておくべきです。

   異動が難しければ、仕事のやらせ方に工夫が必要となります。「売り上げを上げろ」とだけ繰り返しても、経験のないA君はどうしていいかわかりません。「○○の顧客を回れ」「1日に○件訪問しろ」「ツールやトークはこれを使ってみろ」といった具体的な指示を出し、まずはそれに従わせてみます。従わなければ解雇もやむをえません。指示に従っても結果が出ないようであれば、指示が適切でないか、やはりA君に適性がないかということになります。他の社員とのバランスも考え、期限を切って試行錯誤することも大切です。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
野崎大輔・尾崎健一:黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術
  • 発売元: 小学館集英社プロダクション
  • 価格: ¥ 1,365
  • 発売日: 2011/06/30
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