リスクを負わない「賃金奴隷」でいいのか

2011/6/13 17:01

   「賃金奴隷(Wage Slave)」という言葉がある。いわゆる奴隷のような物理的な拘束を受けているのではないが、カネの力でそれと同等の状態に置かれることをいう。言葉の意味に定まったものはないが、例えば以下のような場合がある。

「雇用主のために働き続けるか、貧困・飢餓に直面するか、どちらかの選択肢しかない」
「与えられた仕事をこなしていくだけ。他に人生の可能性はない」

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驚くほど非人道的な日本の住宅ローン

   これを見て「自分のことだ…」と思うサラリーマン諸氏も少なくないのではないか。実際、多くの日本企業では「新卒者を囲い込み、足抜けできない状態にして、一生飼い殺しにする」ともいえる雇用システムを維持してきた。

   社員の生活は、企業によって公私に渡ってがんじがらめにされている。有給休暇も取らずに長時間勤務をし、夜は上司や同僚と縄のれんで一杯。もちろんビールは、同じ系列会社のものだ。

   休日は会社の運動会や社員旅行、社員用保養所で家族サービス、住まいは社宅…。こうやって会社に絡めとられ、会社なしの人生は考えられなくなっていく。家族的経営の名のもとの、奴隷化の推進である。

   「会社の手前、実名登録は躊躇されるから、日本ではフェイスブックは普及しない」などという訳のわからないことが話題になるのだから、奴隷化はいまも続いているといえるだろう。

   日本の会社員の奴隷化を完成させるのが、「住宅ローン」である。アメリカなどでは、住宅ローンは「人に貸す」のではなく「家に貸す」という形式になっている。

   だから、もし返済ができなくなったら、家を返せばチャラになる。これを「ノンリコース・ローン」という。いわば「質流れ」のような話だ。リスクは貸し手側が負うので、津波で家を流された人が二重ローンに苦しむ、などということはあり得ない。

   一方で日本では、住宅ローンはあくまで「人」に貸しているので、いかなる場合も返済を逃れることはできない。最長35年という年月、一度も遅れることがないよう返済をしていかねばならず、完済するまで家は実質的に銀行の所有、という状況が続く。

   これほど非人道的な契約も珍しい。借金のカタに会社員人生を取られたようなもの、といったら言い過ぎであろうか。

(続く)

小田切尚登

経済アナリスト。明治大学グローバル研究大学院兼任講師。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ等の外資系金融機関で株式アナリスト、投資銀行部門などを歴任した。近著に『欧米沈没』(マイナビ新書)
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