2024年 4月 26日 (金)

会社が火の車なのに… ベテラン契約社員「私は辞めない」

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   厚労省の調査によると、働く人に占める非正社員の割合は4割近くにものぼる。現場仕事の相当部分を契約社員や派遣スタッフが担っていると見られる。

   ある会社ではリストラ断行に際して、ベテランの契約社員が「雇い止めには応じない」と反旗を翻し、店長も人事も困惑しているという。

年下の店長もビビる「お局的存在」

――関東広域で店舗展開している不動産業で、人事を担当しています。かつては活況を呈していたこの業界ですが、いまでは売上げがすっかり低迷してしまいました。

   ここ数期は赤字を続けていましたが、社長の代替わりに合わせて、遅まきながらいわゆる「リストラ」を断行せざるを得ないという判断が下りました。

   そこでまずは契約社員を対象に、今期いっぱいで契約を打ち切る通知をしたのですが、女子職員のAさんが、

「これまで長年貢献してきたのに、急にクビなんて会社の勝手すぎる。なぜ正社員は解雇されないのか。私は辞めませんから」

と連絡をしてきました。

   彼女は勤続10年目。人員の回転が速い業界では珍しく長期にわたって勤務しており、店舗内でも一番のベテランです。他のスタッフに対する影響力も大きく、

「その物件はお得意様にとっておくんだから、いま紹介しちゃダメよ」
「その物件は客寄せ用なのよ。『もう申込みがあった』と言っておきなさい」

という言動が若手社員に悪影響を与えているという話もあります。年下の店長が「そういう指導は困りますよ」と言っても、

「来たお客に漫然と物件を紹介してても、会社は儲からないのよ。私はあなたより、ずっと長くこの業界にいるんだから」

と反論するので、おじけづいて何も言えなくなってしまうとか。そんな感じなので、店長はAさんとのトラブルを非常に怖がっています。どうやったら円満に退職してもらえるでしょうか――

社会保険労務士・野崎大輔の視点
自動更新を繰り返すと雇い止めできなくなる

   雇用契約が何年にもわたって自動更新され、職務内容が正社員とほとんど変わらない実態がある場合には、期間満了を理由に簡単に雇い止めができなくなります。いわゆる「解雇」と同じ手順を踏む必要があるのです。「お局さんが扱いにくいからクビ」という恣意的で安易な考えはトラブルの元です。

   まずは業績悪化により、人員削減をしなければ企業の存続が危うくなる状態かどうかがポイントです。役員報酬の削減や新規採用の抑制などを、先に行っておくことも必要です。解雇者(雇い止め者)の選定にあたり、ベテラン契約社員といえども正社員よりも先に対象とすることは認められるでしょう。

   会社としてトラブルなく雇い止めをするためには、雇用契約を自動更新にせず、経営状況や業務量、勤務成績や態度などによって契約更新されない場合があることを更新時に説明したり、契約書に明記したりすることが必要です。

シニア産業カウンセラー・尾崎健一の視点
雇い止めをするときは貢献に謝意を表して

   景気や会社の状況に応じて雇用の調整が行われることは、ある意味では仕方ありません。しかし、だからといって「契約社員はいつ切ってもいい」という勝手な考えでは、働いてもらっている人たちに不安を与えますし、よい人材を集められなくなる懸念もあります。退職者が地域の消費者として、ネガティブな評判を立てるリスクも考えられます。雇用の維持ができなくなる場合には、これまでの貢献に謝意と敬意を表しつつ、優秀な人とは「景気が回復したときには連絡させてもらいたい」と連絡先の交換をしておくことも考えられるでしょう。

   ちなみに「その物件は客寄せ用」「お得意様用」などといったAさんの言動には、悪気はなかったのかもしれませんよ。顧客にとってよいとはいえませんが、業界の慣例だった可能性もあります。これを変えさせるのであれば、会社は新しいルールを作って徹底を図り、顧客のニーズを重視する文化を作り直す必要があるでしょう。


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(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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