2024年 3月 19日 (火)

「イエスマン」は本当に会社を救うのか?

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   渡辺恒雄氏の「鶴の一声」で決定が覆される事態に「NO」を唱え、読売巨人軍の代表兼GMを解任された清武英利氏が、読売グループ本社から総額1億円の損害賠償を求めて訴えを起こされた。清武氏も逆提訴し、泥沼状態になっている。

   このタイミングに合わせたように、興味深い本が出版されている。武蔵野社長・小山昇氏の『社長はなぜ、あなたを幹部にしないのか』(日経BP社)には、「イエスマンこそが会社を救う」という副題がついている。

「間違った決定でもすぐに実行する管理職が正しい」

廃れかけた「サラリーマン処世術」本が人気?
廃れかけた「サラリーマン処世術」本が人気?

   小山氏は、社長は「恐らくあなたが考えているよりはるかに熱心に勉強して」いるのだから、同じように勉強して「自分の価値観を社長の価値観に合わせていくことが大切」と説く。そして、

「間違った決定でもすぐに実行する管理職が正しい」
「社長の決定に不満があるなら会社を辞めよ」
「あなたが辞めても会社は全く困らない」

と断言している。

   この論法に従えば、「NO」を唱えた清武氏は会社を追われて当然ということになる。実際、渡辺氏は清武氏が会社を辞めても「会社は全く困らない」旨の発言もしている。まるで渡辺氏の心中を代弁しているかのようだ。

   一方、かつて清武氏の盟友だった白石興二郎・球団オーナーと桃井恒和・球団社長は、会社側の原告として清武氏を提訴した。こちらはトップの命令をすぐに実行する「正しい管理職」「イエスマン」ということになる。

   同様の論調は、藤本篤志氏の『社畜のススメ』(新潮新書)にも見られる。サラリーマンが最初に身につける処世術は「会社の歯車となれ」ということであり、「体育会系」の学生が就職活動などで根強い人気なのは、

「問答無用への耐性がある人が多い」
「『なんかヘンな指示だな』と思っても、とりあえず実行してみる人の率が高い」

のが理由だということだ。

処世術としては正しいかもしれないが

   とはいえ、「出世したければ上司のイエスマンになれ」というのは、処世術として目新しいものではない。植木等主演のサラリーマン映画「日本一のゴマすり男」がヒットしたのは、1965年のことだ。

   それがいま、取り立てて話題になっているということは、そんなサラリーマンの「常識」が少しずつ廃れ始めているからなのかもしれない。

   「イエスマン」たちが引き起こした問題も、次々と明らかになっている。『週刊東洋経済』(2011.12.17号)では「社長にNOと言えるか ガバナンス不全症候群」として、企業不祥事の「当たり年」だった1年を振り返っている。

   福島第一原発の保守管理を担当した蓮池透氏は『私が愛した東京電力』(かもがわ出版)の中で、東京電力では社内で「原発安全神話」に疑問を提起することすら許されなかったと、悔悟の思いとともに打ち明けた。

   『週刊SPA!』(2011.12.20号)では、大王製紙の元社員がインタビューに答え、

「井川会長に気に入られなかったら、現場の評価がAでも、鶴の一声でCになる」
「イエスマンで好かれた人か、何も考えていないのん気な人たちしか残らない」
「ナベツネのコーチ人事介入など、かわいいもんです」

と内情を暴露している。「鶴の一声」に抗えない部下たちが、井川元会長への100億円を超える不正融資を許した。結果として「イエスマン」は、会社を救わなかったわけだ。

   オリンパスの損失隠し問題でも、不正を諌めるはずの監査役が「飛ばし」を了承していたと報じられた。監査役は元経理部長で、引責辞任した元会長とは上司・部下の関係だったこともある。不正を調査した第三者委員会の甲斐中辰夫委員長は、「正しいことを言えば飛ばされ、イエスマンが周りを囲み、誰も何も言えなくなった」と会社の体質を糾弾した。

   処世術としては正しかったのだろうが、それがもたらした結果は、果たして社員として、あるいは社会人としても正しく、プライドが許すものであったのだろうか。

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