人事から見た「職務発明制度」見直し 特許は法人に帰属させてよい

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   政府が「職務発明制度」の抜本的な見直しを行うことを閣議決定した。現在は業務上で取得した特許を受ける権利は個人にあるとされるが、これを企業に帰属させるように変えましょうね、という改革である。

   「頭脳流出を阻止するためにも社員個人の利益を守るべきだ」(2013年6月19日朝日新聞社説)と言っている人もいるが、筆者はむしろ、この改革は個人の利益を守るためにこそ必要なものだと考えている。意外と重要な話なので簡単に整理しておこう。

「相当の対価」の正確な数字など誰にも分からない

   筆者は、現状の制度には以下の2つの問題があると考えている。

1.「相当の対価」の曖昧さ

   たまに「従業員1人ひとりの成果をデジタルに算出します」的なサービスをうたうコンサルもあるが、営業成績の明らかなセールス職等を除き、筆者は個人の成果を正確に測定するのは不可能だと考えている。

   これは特許に対する「相当の対価」についても同様で、裁判所の頭の良い人たちが一生懸命考えても、きっと正確な数字は誰にもわからないはず。実際、青色LEDの中村氏のケースでは、一審で600億という対価を裁判所が算定しつつ、結局は8億円で和解している。絶対的な基準などないという証拠だろう。

   ついでに言うと、その特許を基にリスクをとって事業を進めたのは企業であり、何年も経ってから「相当の対価を払え」と請求することに無理がある。それが認められるのなら「例の特許で始めた事業がこけたから、おまえもいくらか弁償しろ」と会社から請求書が送られてくることになる。

2.報酬システムの未整備

   そして、日本企業内の報酬システムの未熟さもあげられる。日本企業の査定は部署ごとの相対評価が基本だ。すごく部内で活躍した人はA評価で、同僚よりボーナスが2割程度多かったり、春の昇給額が数千円アップしたりと、そんな感じである。

   それに加えて、年功の多い人は、長期的に部長→本部長→取締役といった具合に、ポストで報われることになる。それが本人の貢献分に見合っているかなんて誰にもわからないし、まして特許法のいう「相当の対価」に見合っている保証などない。

   ちなみに、2000年前後に会社を訴える元技術者が続出したが、あれはバブル崩壊後に組織のポストが激減し、ゆくゆくは役員かグループ会社の社長ポストくらいはもらえるだろうと思っていたがアテが外れた往年の名技術者が起こしたものだ。

   筆者の知るケースでは、NHKから「プロジェクトX」でのインタビュー収録依頼がある社員に来たものの、本人が出世どころか、すでにリストラされていて人事部が頭を抱えたという件もあった。「会社のために頑張ればいずれ報われる」という暗黙の信頼関係は、すでに崩壊したと言っていい。

権利を発明者から切り離し「メリハリのきいた処遇」で対応

   以上2点をまとめるなら、現状の日本企業では「相当の対価」の基準が曖昧で、しかもそれに報いる手段もないということだ。個人の利益を保護し、インセンティブを維持するためには、むしろ早急な改革が必要だろう。

   では、どうすれば、企業と従業員双方の納得できる対価を決め、それを支給することが可能だろうか。それには“市場”を活用するしかないというのが筆者の意見だ。

   特許は法人に帰属するけれども、代わりに採用時の契約段階でメリハリのきいた処遇を提供し、それに納得した人間が契約を結んで入社する。たとえば、一流の研究者をスカウトする場合。

「我が社で研究して頂ければ、年俸2000万円+出来高ボーナスあり、ストックオプション制度も利用可能です」

といった条件を出し、それに納得した人だけが入社するという具合だ。納得できない人は他の会社の門を叩けばいい。

   それが恐らく、双方の納得する対価を決め、かつ、実際に個人に支払う唯一の方法だろう。そのために権利を発明者から切り離すのは、筆者はとても重要な改革の第一歩だと考えている。結果としてそれは、企業にはより合理的な報酬制度の構築を促し、個人にはより高い成果へのインセンティブをもたらすはずだ。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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