2024年 4月 23日 (火)

正社員廃止後の社会 残業減り、賃金上がりやすくなる

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   元旦の朝まで生テレビスペシャルで、竹中平蔵氏が「(正社員と非正規雇用の格差を是正するための)同一労働同一賃金の実現には、正社員を無くしましょうと言わないといけない」と発言し、大きな反響を呼んでいる。筆者からすると当たり前すぎて議論の余地もない正論なのだが、かなりの批判も浴びているようだ。

   いろいろ反応を見てみると、どうやら反対している人は「正社員もみんな派遣やフリーターみたいに低賃金で不安定な職になってしまう」と思い込んでいるらしい。それは完全な誤解だ。というわけで、正社員を無くせば何が起こるのか、ごくごく基本的な論点に絞って説明しておこう。

残業時間が減る

   まず、すべての人に影響する話として、残業時間の減少が挙げられる。なぜ正社員を無くせば残業時間が減るのか。従来の日本社会は、企業も行政も「雇用は守る。けれども残業はいっぱいさせる」という発想で動いていた。忙しい時はいっぱい残業し、暇になったら残業を減らす。要は残業時間を通じて雇用調整していたわけだ。

   この仕組みは、既に正社員の椅子に座っている人の雇用は安定させる効果があるが、失業者や新卒者にとっては就職しにくく、また(残業時間の上限が無い等の抜け穴が用意されているため)過労死やブラック企業といった副産物も生み出してしまった。

   一方、正社員を無くすということは、もっと柔軟に採用や解雇がしやすくなるということだから、企業は忙しければ人を雇い、暇になったら解雇すればいい。つまり、残業そのものは減るわけだ。日ごろ声高にブラック企業批判をしているような人に限り、竹中発言を批判している理由が筆者にはサッパリ理解できない。

派遣労働者が減る

   それから、正社員を無くせば派遣労働者は大きく減少することになる。なぜか?答えはシンプルで、企業が直接雇った方がコスト的に安く済むからだ。現在、企業が派遣会社を間に一枚噛ませるのは、直接雇用に伴うリスク(有期雇用でも5年雇うと無期雇用しないといけない等)を派遣会社に負担してもらっているためで、はっきり言って直接雇うより割高である。正社員だろうがなんだろうが一定の条件で解雇できるようになれば、大手で派遣会社を使うところは大きく減るはずだ。

   逆に、派遣会社は淘汰が進み、一定期間経過後に派遣社員を直接雇用に切り替えてもらう人材紹介会社的な業態にシフトしていくだろう。日ごろ声高に「派遣会社は悪だから規制しろ」と言っている人ほど、竹中発言を批判している理由が、やはり筆者にはサッパリわからない。

賃金が上がりやすくなる

   正社員をなくせば、賃金は上がりやすくなる。というのも、先の心配をしないで大盤振る舞いできるようになるためだ。

   現在、政府は企業に積極的な賃上げを呼び掛けているが、実現は一部企業にとどまっている。筆者の知る限り、本音では賃上げの余地はあるのだが、一度賃上げしてしまうと見直しが難しくリストラも困難なため、なるべく賃金を抑制しておくという企業が少なくない。

   「従業員の人生設計」という、本来は政府が見るべき負担を企業から取り払ってやることで、アベノミクスに不可欠な賃上げという歯車が回り始めるきっかけになるかもしれない。

再チャレンジしやすい社会になる

   新卒の時にたまたま不景気で、非正規雇用のまま年を経てしまったという人は多い。そうした人が、後から多少景気が良くなったからと言って、今の新卒と同じように就活して正社員になれるかというと、とても難しい。

   また、新卒で有名大企業に入った人の中にも、後からもっと他にやりたい仕事が見つかったという人も少なくないはず。中には「大学でもう一度学びなおしたい」という人もいるだろう。でも、20代後半ともなると、なかなか再チャレンジは難しい。

   「正社員という名の65歳まで続く一本のレール」が真ん中にドンと居座っている以上、そこからあぶれてしまった人が後から乗りこむことはとても難しく、乗っている人は乗っている人で、それがわかっているからなかなかリスクが取れないためだ。

   でも、レールが無くなればどうか。正社員、契約社員、派遣社員、男性女性、高卒、大卒、新卒、中途を問わず、あらゆる人がその時の能力で処遇されるようになるのだから、誰がどこにいようと再チャレンジはぐんとしやすくなるに違いない。

労働市場の流動化は世界的な潮流

   つい先日、イタリアで実質的な解雇規制の緩和が閣議決定された。イタリアというのは日本同様に解雇規制が強く、長らく雇用後進国のレッテルを貼られていた国だ。そうした国々が今、労働市場の流動化に舵を切り始めている。雇用の規制を強化すればするほど国内での雇用が減り、椅子に座っている人とそうでない人の格差が拡大するだけという現実に、ようやく彼らも向き合い始めたのだろう。

   なぜか日本には、そうした動きを『新自由主義』と呼ぶ人もいるが、筆者に言わせれば主義主張とは何の関係もない現実的な政策に過ぎずない(そもそも新自由主義というのは左翼の造語にすぎず、系統だった学問なり思想があるわけではない)。

   水は高いところから低いところに流れるのだから、イタリア同様に出来るだけ堤を低くして多くの水を引く努力をするか。それとも「水が低いところに流れるのは新自由主義だ!」という頭の悪いロジックに乗っかって雇用落第生の地位に甘んじるか。2015年は日本国民の見識が問われる一年となるだろう。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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