2024年 3月 29日 (金)

経営学の視点で読む「テレビ」 個人動画時代に生き残れるか

『テレビの秘密』(佐藤智恵著、新潮社、税別740円)

   「テレビの凋落」が言われて久しく、最近もNHK放送文化研究所が、日本人のテレビ視聴時間は初めて「短時間化傾向」に転じた、と発表した。しかし、週刊誌やネットメディアにはテレビネタがあふれ、学校や職場での話題も、大半はどこかでテレビとつながっており、影響力はなお大きいのも否定できない。

   そんなテレビ番組作りの現場を日本と米国で踏んできた著者が、なぜあの番組は視聴率が高いのか、をリアルに分析して見せた。ボストンコンサルティングにいた経験もあり、

   随所に「経営学の視点」もある。

視聴率を取るとはどういうことなのか

   経済誌のオンライン版に連載していた当時から話題になっていたものを加筆、修正したものだけであって、ちょっと前のあの番組は、そういうことだったのか、ということも知ることができる。たとえば「なぜ『相棒』の杉下右京は恋愛しないのか」という謎。これにはドラマ作りの共通のフォーマットがあるというのだが、種明かしはやめとこう。

    本書を読んで、つくづく思うのは、ドラマに限らず、ワイドショーからトーク番組、ニュースに至るまで、テレビ番組は「商品」だ、ということだ。ターゲットとする視聴者の深層にある心理や欲求を探り、タイミングとキャスティングを組み合わせるなど、番組の制作現場の思考回路を明かしてくれる。

   この本では、視聴率競争に潜む問題や、最近話題の「テレビと政権との距離」などには触れられていない。しかし、ひたすら視聴率を取るとはどういうことなのかを、「消費者」としての視聴者という観点や経営学の原理を駆使して分析し、視聴率を取れない理由を論理的に説明しているので、いっそ痛快ではある。

   最終章では、「亜流、辺境が天下を取る」として、東京のキー局で起きつつある下剋上の今後を、理由も交えて予想する。

   その中で言及される、制作側の「設定」がなく、起承転結の「結」がなく、低予算を隠さない、という番組が人気を博しているという事実は、個人が動画を世界に向けて発信できるようになった時代を象徴するものと感じた。

   そして、テレビ視聴の短時間化傾向がはっきりしたいま、公共の電波を独占し、従来のフォーマットで作る番組作りに依存する地上波テレビ会社に未来はあるのか。書かれていない、もう一つの「テレビの秘密」もあぶりだされている。(MD)

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