2024年 5月 1日 (水)

上場企業の配当過去最高 背景に敵対的な買収回避の狙い

   東証1部上場企業の2007年3月期決算は、全体で5期連続の増収増益を確保することが確実だ。経常利益も4年連続で過去最高を更新する見込みで、利益増を背景に、配当金総額も過去最高に達する見通しだ。企業が株主還元の姿勢を強めるという株主重視は結構なことだが、背景には敵対的な買収を回避したいとの思惑がある。

47.1%の企業が増配・復配を行う見込み

   07年3月期決算発表がピーク(15日)を終えた後の17日までの新興総合研究所の調査によると、継続したデータがある1部企業(金融を除く)の全体の売上高は前期比8.8%増、経常利益は同6.3%増だった。増益企業は全体の66.6%に上った。

   好決算は、海外売り上げが好調だったことや企業が負債削減を進めるなどして財務体質を改善したことある。多数の企業は当初、為 替レートを1ドル=110円程度と予想していたが、実際には1ドル=約117円前後と円安で推移したことも収益を押し上げた。こうして、自動車、電 機は全般的に好調だったほか、資源高の影響も加わり非鉄金属や商社の高収益も目立った。

   配当の増額も今回の決算の大きな特徴だ。金融も含めて、全体で同約15%増の約5兆9,000億円に上る見通しで、実に47.1%の企業が増配・復配を行う見込み。配当金総額は03年3月期の2兆5353億円と比較すると2倍以上に上る高水準で、配当性向(最終利益に占める配当金の割合)も同約2ポイント増の20%台半ばに上る見通しだ。

再編のうわさが絶えない業界で増配が進む

   配当金総額が2けた増と大幅に上昇する背景には、5月から「三角合併」制度が解禁されるなど、本格的買収時代に向け、企業が防衛を図る意図が働いている、と指摘される。企業は増配を発表すると株価が上昇する傾向が強い。さらに、増配などで現金を吐き出さずに内部にため込めば、その企業を買収した企業は内部留保と相殺した実質的な買収額が下がることになり、容易に買収資金回収できるため、買収の標的になりやすい。

   07年3月期決算をみると、鉄鋼や医薬品など再編のうわさが絶えない業界で積極的な増配が進んでいるのも、こうした見方を裏付ける。新日本製鉄は前期の1株9円から10円、JFEホールディングスは同100円から120円、神戸製鋼所も同6円から7円と、相次ぎ増配に踏み切るのが、その代表。医薬品業界でも、最大手の武田薬品工業が前期の1株106円から128円、第一三共は同25円から60円、アステラス製薬は同70円から80円、エーザイも同90円から120円へと、そろって増配する。

   鉄鋼や医薬品業界は、企業が市場から自社の株式を買い入れて償却し、1株当たりの利益を押し上げる「自社株買い」の動きも激しい。新日鉄は07年3月期に前期の2倍の約1000億円の自社株取得を実施し、JFEと武田は初めて自社株取得を行った。

   市場関係者は「日本企業はこれまで内部留保を重視し、安定配当を中心としてきたので、配当を大幅に上げるケースは少なかった。しかし、敵対的買収の動きが広がる中、株主利益を向上させて、株主を見方につける手法が重視されつつある」と指摘、今後も配当増の動きは進むとの予測は根強い。

   増配は株主にはありがたいことだが、企業には持続的な成長戦略をきちんと描き、実践する責任が一段と重くのしかかる。「景気が良いから増配」という単純な図式を乗り越え、真に株主重視の経営にかじを切ったのか、まだ見極めが必要のようだ。

姉妹サイト

注目情報

PR
追悼
J-CASTニュースをフォローして
最新情報をチェック
電子書籍 フジ三太郎とサトウサンペイ 好評発売中