2024年 4月 26日 (金)

交付金年々減少 国立大はやっていけるのか 
(連載「大学崩壊」第9回/野村證券・片山英治さんに聞く)

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寄付など外部資金の導入が必要

――野村證券が東京大学大学総合教育研究センターと行っている、大学の財務基盤をテーマにした研究によると、「米国の大学の永続性は寄付で支えられている」部分が大きいようです。

片山: 米国の大学生の8割は州立大学に通っています。この州立大学の収入構造自体は、日本とあまり大きな違いはありません。ただ、1970年代までは、米国の州立大も州から比較的潤沢に補助金を受け取っていたんです。ところが、1980年代になって、貿易赤字・財政赤字の「双子の赤字」が表面化する中で大学向け補助金は大きくカットされました。
   カリフォルニア大学(UC)バークレー校を例に取ると、1978年時点では補助金が過半数を占めていましたが、最近では3割を切っています。補助金の大幅カットを受けて、米国の大学は2つの手を打ちました。一つが、企業からお金をもらう「産学連携」。二つ目が、寄付募集の拡充。ですから、1980年代に米国の州立大学が直面した環境変化と今の日本の国立大学の置かれた状況は、かなり似ていると言えるのではないでしょうか。

――寄付募集をはじめとする外部資金の導入を進めていくことが、今後の国立大学には必要だということですね。

片山:「寄付の獲得先として企業に依存している」「中長期的なビジョンで寄付募集ができていない」など問題点は様々ありますが、一番欠けているのは、寄付者とのコミュニケーションです。米国では「ドナー・ドリブン」(寄付者の意思を尊重した募集)か「ニーズ・ドリブン」(大学側のニーズを前面に出した募集)という言われ方があります。寄付者には「大学側にこういう目的に自分の寄付を使って欲しい」という意思があるので、ドナー・ドリブン型の募集が望ましいといわれています。本来ならば寄付者の意思と大学側のニーズをすりあわせるという作業が必要なのですが、日本の大学を見るとニーズ・ドリブンのケースが多い気がします。今後は寄付者の意志を尊重すべく、コミュニケーションを多用した募集が重要になってくるのではないでしょうか。

――米国の大学では、寄付募集以外にも、資産運用が盛んだとも聞きます。

片山: 米国でも、今回の金融経済危機に伴い足元で基金の運用益が大きく落ち込んでいるのは事実ですが、「大学の永続性をお金の面から支えるためには基金(ファンド)が必要だ」と米国の大学は信じています。それで、基金向けの寄付募集を行い、基金の資金をもとに資産運用を熱心に行っているんです。そして、運用益は経済的に学費を払うのが困難な学生や優秀な学生を対象とした奨学金等の学生支援や教育研究の支援にあてられています。
   日本の国立大学でも04年の法人化の際に「特別会計」が廃止されたことに伴い、米国と同様の「基金」を作ろうという動きが活発化しています。しかし、基金は、国立大学の会計上想定されていた概念ではないので、今でも位置づけは必ずしも明確ではありません。この点、議論をしていく必要があります。
   国内の大学の資産運用については、運用の目的が明確にされていないのが問題だと思います。これまでの議論でも「安全確実な運用が必要」といった「手段」に着目した議論は多いのですが、目的についての議論が十分になされていないのではないでしょうか。
   目的が明確になれば、「どの程度運用収益が必要か」も明らかになり、「何%の利回りが必要」という運用目標も明らかになります。その上で初めて「こういう商品があるが、これはリスクが高いのでやめよう」という議論が可能になるはずです。目的を抜きにして、「これは安全だ、危険だ」という議論をしても、あまり意味はありません。
   運用益の活用例としては、早稲田大学の「創立125周年記念奨学金制度」があります。これは給付型の奨学金ですので、学生は返済の必要がありません。原資は資産運用収益の一部で、毎年6億円。この取り組みは、事業報告書や決算書にも記載されています。
   大学の本業は教育研究であり、資産運用ではありません。だからといって、代替財源の議論を抜きにして運用をやめればいい、安全確実な運用に限定すればいいというのも極端な議論です。ですから、運用を行う目的を学内外の関係者に明確にするとともに、学内のルールや管理体制を整備し、説明責任や透明性を確保するという取り組みが不可欠でしょう。

片山英治さん プロフィール
かたやま えいじ 野村證券法人企画部主任研究員。1967年鹿児島県生まれ。1990年京都大学経済学部卒業、野村総合研究所入社。資本市場研究部等を経て2004年に野村證券に転籍、現在に至る。06年9月より東京大学大学総合教育研究センター共同研究員を兼任。大阪市公立大学法人評価委員会委員。文部科学省07-08年度先導的大学改革推進委託事業「大学の資金調達・運用に関わる学内ルール・学内体制の在り方に関する調査研究」共同研究者。報告書は、東京大学大学総合教育研究センターのウェブサイト(http://www.he.u-tokyo.ac.jp/)から全文をダウンロードすることができる。

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