2024年 4月 19日 (金)

高橋洋一の民主党ウォッチ
貿易再保険「廃止」というごまかし  実は官僚が完勝していた

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   民主党の目玉である事業仕分けが「特別会計」(特会)に踏み込んだ。事情仕分けが国民の関心を集めて、様々な議論が国民の前に明らかにされるのは、明らかに望ましい。事業仕分けの公開性は評価できる。

   特会については、いろいろないわれ方がされてきた。各省のポケット、国会審議のされない聖域、伏魔殿などなど。これらは一面をとらえているが、中途半端な理解では、事業仕分けによって達成すべき制度改正にはほど遠い。

特会を一般会計にいれるとドンブリ勘定ひどくなる

   たとえば、特会は国会で審議されないと思いこんでいるマスコミが多い。しかし、制度としては特会と一般会計は、ともに予算の一部となっており、国会でまったく同じ扱いである。こうした誤解をするマスコミは一般会計予算書とともに特別会計予算書なんて見たことないだろう。ともに国会に提出される1000ページくらいの公式書類である。

   予算の報道は、ほぼすべて役所側がマスコミ用に配布する要約資料におおきく依存している。それは一般会計と特会の役所にとって都合のいいことだけが書かれており、それを記事にしているだけだ。しかも、特会のところはわかりにくいから記事にならず、結果として一般会計の一部が記事になる。国会議員のほうも情けないことに、一部を除いて、マスコミ報道されたわかりやすいところを質問する。マスコミがわからないところは報道されないからだ。

   特会がわかりにくいのはその事業内容だ。特会は、「トンカチ」と「カネ」に分けられる。前者は、社会資本整備事業特会、つまり道路、治水、港湾、空港、都市開発の公共事業だ。後者は保険、金融、資金系特会で、財政融資、国債整理基金、外為などが代表的だ。トンカチのほうが目に見えるので理解しやすいが、カネは抽象的で知識も必要なので難しい。たとえば、トンカチは視察できるが、カネはやりようがない。

   こういう事情なので、事業仕分けでは、いきおい「特会の統合」や「特会を廃止して一般会計への移管」という何の意味もないが、マスコミ的には見出しになることに傾きがちだ。特会を廃止して一般会計に移管すると国会で質問が増えるというマスコミもいるが、それが的外れなのは既に述べた。じつは、特会のほうが予算の情報量が多い。一般会計にいれるとドンブリ勘定になるだけだ。

官が独占していた時代に逆戻り

   このような懸念をもっていたら、事業仕分け初日(第3弾、2010年10月27日)から、とんでもない「統合」を見てしまった。

   貿易再保険特会は、独立行政法人「日本貿易保険」に業務を一本化するよう求められた。これをマスコミは貿易再保険特会の廃止と報じた。中身がわからずとも、単なる統合なので事業が継続されるなら意味がないくらいわかるだろう。

   さらに、重要なのは、この統合が改悪だったのだ。貿易再保険の廃止という言葉でごまかし、貿易保険の民営化の話が決まっていたのに、それを反故にしたのだ。役所側の高等作戦に、行政刷新会議がまんまと騙されたけだ。

   これを理解するためには経緯を知っておくほうが良い。貿易保険は従来国が行ってきたが、01年中央省庁再編の時に貿易再保険は国(特会)、貿易保険は独法(日本貿易保険)と分離した。その後、独法は民営化(特殊会社化)されることが決まった。さらに、保険分野では民間参入も行われてきた。

   貿易保険については、海外においても全部を国、または全部を民間という考え方がある。日本では、再保険と保険を分離し、官が行う分野と民が行う分野を分けてできるだけ民へという考え方によった。それが今回の事業仕分けで、独法(日本貿易保険)が再保険を取り込んだことで、保険分野の民営化はできなくなった。特会という形ではなく独法という形だが、01年以前に貿易保険全部を官が独占していた時代に逆戻りだ。経産省にとって、再保険の生き残りと独法の民営化阻止の一石二鳥になった。官僚完勝だ。

   なお、労働保険特会では、ジョブカードという枝葉のところしか議論できず、雇用勘定では保険といいながら年金数理上の適切な扱いはなく積立金(7兆円)の合理的な説明はなされていない。これは、給料から天引きされている雇用保険料が過大であることを示唆する。国民から余分に搾り取って、天下り先に浪費するのでは国民は納得できない。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「さらば財務省!」、「日本は財政危機ではない!」、「恐慌は日本の大チャンス」(いずれも講談社)など。


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