2024年 5月 5日 (日)

ライフスタイルLCCで変わった 数日の休みあれば近隣諸国へ飛ぶ
(連載「LCC革命の衝撃」第7回)

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   欧州では、LCCが人々の生活に根付いてきた。以前は航空運賃が高いので、短い日数しか取れない場合、海外旅行は控えていた。それがLCCの登場ですっかり変わった。数日の休みがあれば近隣諸国へ、となり、ライフスタイルにも変化が出ているのだ。

   ドイツ中西部に住むマティアス・ブック氏は、出張やプライベートの旅行で頻繁にLCCに乗っている。行き先はロンドンやローマ、オスロなど欧州各都市で、主に利用するのは、「ジャーマンウィングス」や「エアベルリン」だ。

学会や研究会へ参加する人数が以前より増えた

欧州内を結ぶ路線が多様に(写真はエアベルリン)(c)airberlin
欧州内を結ぶ路線が多様に(写真はエアベルリン)(c)airberlin

   ドイツの大手航空会社、ルフトハンザ航空の運賃よりぐんと安く、時には20ユーロ(約2000円)で往復できる。場所によっては鉄道という選択肢もあるが、「日帰り出張で収めたい場合は、航路の方が時間の節約になるし、出張先で宿泊しない分の料金も抑えられます」と話す。

   ただ、LCCがありがたいと一番感じるのは個人的な旅行だ。そのせいで、妻のクリスティー・ツァンさんと一緒に、休暇で欧州内に短期間の旅行を楽しむ機会が増えた。これまでは、3日間程度の小旅行だと、「短期間しか滞在しないのに、高い航空運賃を払うのはもったいない」と感じてなかなか行けなかった。LCCの登場で、「数日の休みがあればローマやブダペストといった街に気軽に旅行できるようになりました」(ブック氏)。

   デンマーク、コペンハーゲン大学准教授のマリエ・ロスゴ氏は、大学で開催する学会や研究会へ参加する人数が以前より増えた、と感じている。逆に先方へ研究者を派遣する際も、「以前だったら予算の都合上一人しか行けませんでしたが、現在は十分な人数を送れるようになりました」と話す。

   低価格、時間の節約を実現するLCCの利用で、両氏とも仕事やレジャーのスタイルに変化が出た。ブック氏は、「出張で欧州内の移動が大変便利になり、仕事の都合がつけやすくなった」と言う。またロスゴ氏は、「じかに顔を合わせて会議を開くほうが、メールや電話で済ませるより効果的なのは明らか」と言い、航空機での旅の敷居が低くなったおかげで人の往来、交流が活発になり、ビジネス上でも好影響を与えていることを強調した。

出発ギリギリに空港に行き、電車に飛び乗る感覚

   欧州を拠点に活動するクリエーターの高城剛氏は、著書「70円で飛行機に乗る方法」でLCCについて「30分前ギリギリに空港に行って、電車に飛び乗る感覚に近い」と書いている。仕事でほぼ隔週で国際線を利用するという高城氏だが、プライベートでも友人から、「おいしいものを食べに行こう」「友人のパーティーに来ないか」と届く誘いの行き先は欧州内の別の国だという。もはや「外国」という考え方ではなく「ちょっとそこまで出かけてくる」といった様子だ。

   もちろん、「空港が中心部から離れている」「時間に遅れる」といったデメリットがないわけではない。ブック氏は、あるLCCが「デュッセルドルフ-ローマ往復99セント(約80円)」と破格の値段を打ち出してきたときに利用したが、「顧客対応が最悪で、遅延ばかり。二度と利用しません」と語る。

   だが、これも発想ひとつで変わる。ロスゴ氏のように、安いのだから「多少の遅延は覚悟のうえ」と割り切る人もいる。特に学生のような「時間はあってもカネはない」という層にとっては、何より低運賃で旅行できることに魅力を感じるはずだ。一方、ブック氏がよく利用する独エアベルリンのように、最安値を追求しない代わりに一定の機内サービスを提供するLCCも登場するなど、LCC各社は多様化してきている。

   エアベルリンに取材すると、「高品質のサービスを安価に提供する『ハイブリッド航空会社』を目指しています」(同社広報部)との答えが返ってきた。LCCが客に支持されたのは、「既存の航空会社にはなかったシンプルな価格設定」を理由に挙げる。だが同じタイプのLCCが増えて、客は「高価格、贅沢なサービス」か「低価格、サービスなし」の両極端の選択肢しかなくなってしまった。

   その「中間」を求める客層を掘り起こすため、レジャー客とビジネス客両方に対応できる「激安ではないが、一定のサービスを提供」というビジネスモデルを採用したと同社では説明する。

   おかげで欧州では、利用者個々の生活スタイルや金銭的、時間的な余裕の有無などそのときのニーズにあわせて、いろいろなLCCから好みのものを選び、旅行ができるようになった。

   増加したLCCの間で淘汰も起きてきた。エアベルリンも、オーストリアのニキ航空やスイスのベルエアーになどに出資してグループ傘下に置き、国内外の航空網を充実させて、「勝ち組」となりつつある。

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