2024年 4月 17日 (水)

高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 
日銀にだまされたマスコミ 「枠組み変更」、実は「何もやっていない」

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   日銀は2016年9月21日の政策決定会合で金融政策の総括的な検証を行い、金融政策の枠組を変えた。従来のマネタリーベース目標から、長短金利目標とした。短期ではマイナス金利、長期ではゼロ金利だ。もっとも、長短金利操作付き量的・質的金融緩和としていることからも分かるように、同時に、長期金利については、「概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現する」としている。

   これをどのように評価すべきか。まず、今回行うべきだったものは何か。筆者は、金融政策の目標は雇用の確保だと思っている。これは物価と失業率が逆相関になっているというフィリップス関係を前提とすれば、物価の安定と整合的だ。米国の金融政策を見ても、いつも失業率がどうなるかという観点から行われている。

  • 日銀は金融制作決定会合で何を行ったのか
    日銀は金融制作決定会合で何を行ったのか
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伏線は、日銀、財務省、金融庁の3者会合

   今のところ、失業率は3%と低い。ただし、まだ賃金は全面的に上がっていない。ということは、まだ完全雇用に遠いというわけだ。筆者の試算によれば、完全雇用は失業率2.7%程度であり、まだ失業率を下げる余地がある。しかも、まだインフレ率は目標の2%に達していない。この場合、さらに金融緩和が必要な状態だ。

   こうした立場からみれば、今回の日銀は、金融政策の枠組みを変えたが、その中身をみると、金融緩和はしていない。やり方を変えますと言いながら、何もやらなかったわけだ。

   マスコミはこの方法に騙される。新しい方式の解説で頭がパンパンになって、何もやっていないことを忘れるのだ。筆者は、こうした現象をかつて「マスコミの小鳥脳」といったことがある。

   どうしてこうなったのか。その伏線は、日銀、財務省、金融庁の3者会合が作られたことにある。この会合は、情報交換の場であるが、会合に出席しているのはトップではなく、事務方である。ただし、事務方によって、重要な政策が形成されるので、こうした会合は侮れない。

   その中で、今のマイナス金利はこれ以上やらない、国債買入増額の量的緩和もこれ以上やらないという意思形成が行われたのだろう。

インフレ目標の達成期限の先送り

   3者会合で、金融庁はこれ以上マイナス金利をやらないでもらいたいという意向だ。それは、マイナス金利は日本経済のためにはなるが、当面の金融機関収益を失わせるからだ。1兆円ももうけたメガバンクが、収益が減るとマイナス金利に反対している以上、金融機関の擁護者である金融庁としては当然の話だ。

   財務省は、安倍政権の積極財政をよしとせず、さらなる国債発行を嫌っている。日銀も、もともと国債買入に消極的であり、黒田総裁が隠れ財務省ということを知っているので、財務省に同調しがちだ。

   こうして、マイナス金利も国債買入増額の量的緩和も封じられた。と同時に、長短金利スプレッドを確保して、いっそう金融機関の擁護を決定的にした。その代償が、インフレ目標の達成期限の先送りである。

   もともと2年でインフレ率2%が達成できなかったのは、2014年4月からの消費増税があったからである。そのときまでインフレ率1.5%と目標達成直前だった。この事実を総括検証ではほとんど触れずに、必要な金融緩和をせずに、政策変更して目標達成時期を先送りした。やるべきことをやらないと、後で日本経済にしっぺ返しが来る。急激な円高にならなければいいが。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわ ゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に 「さらば財務省!」(講談社)、「図解ピケティ入門」(あさ出版)、「儲かる五輪 訪れる巨大なビジネスチャンス」(角川新書)など。


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