結局、正社員の賃金を下げる結果に? 「同一労働同一賃金」で起きるコト

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   正社員と非正規労働者の待遇格差の是正を目指す「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)」が決まった。2016年12月20日、政府の働き方改革実現会議で「指針案」としてまとめられたもので、政府は17年1月に招集される通常国会に関連法の改正案を提出、改正法施行後に「案」が外れて正式な指針として効力を持つことになる。

   現状では、非正規労働者の基本給は正社員の6割弱の水準にとどまり、賞与や昇給の差も大きい。厚生労働省の調べでは、正社員・非正規の両方雇う企業のうち非正規に賞与を支給しているのは4割弱にとどまり、金額も4万円程度と極めて低い。また、正社員が勤続年数に応じて給与が高くなる場合が多いのに対し、非正規は横ばいで推移するケースがほとんど――などとなっている。

  • 格差是正がどこまで、どんなテンポで進むかは不透明だ(画像はイメージ)
    格差是正がどこまで、どんなテンポで進むかは不透明だ(画像はイメージ)

「不合理で問題がある」待遇差の例

   こうした現状を踏まえ、指針案は基本給、賞与・各種手当、福利厚生、教育訓練・安全管理の4項目に関して、待遇差をどのようにつけた場合が「不合理で問題があるのか」を示すもの。

   まず、賃金の根幹をなす基本給については、決める要素として「経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」に分け、それぞれについて、正社員・非正規で差がなければ同じように支払うのが原則だと明記。要素に「違い」がある場合は、違いに応じた額を支払うのを認めるが、その金額差が「不合理」になってはならないとしている。

   賞与については、「企業の業績への貢献」に応じて支給する場合、貢献度が同じなら正社員・非正規にかかわらず同一の支給をすべきだと明記。通勤手当や出張旅費、慶弔休暇などでは待遇差を認めず、正社員か非正規かにかかわらず「同一の支給・付与をしなければならない」とした。

   このほか、昇給は、職業能力の向上に応じて非正規にも実施する▽正社員と内容などが同じ役職なら役職手当は同一に▽時間外労働手当や深夜・休日手当は同じ割増率に▽食堂や休憩室など福利厚生施設は、非正規にも利用を認める▽派遣先社員と職務内容・配置の変更範囲が同じ派遣社員に対し、派遣会社は同じ賃金や福利厚生、教育訓練を実施――なども盛り込んだ。

   ただ、企業コストが大幅に増える退職金や住宅手当の扱いには触れなかった。また、連合が求めていた待遇差の根拠を説明する使用者の責任(説明責任)の強化は明記されなかった。

「かえって格差が固定化する」懸念も

   指針を示した同会議で、安倍晋三首相は、「正規労働者と非正規労働者の間の不合理な待遇差を認めないが、わが国の労働慣行には十分に留意したものとなった」と胸を張った。自画自賛は割り引いても、「同一労働同一賃金」という大きな方向に異論は少なそうだが、簡単に実現するものでもない。

   例えば、根本的な問題として、欧州では、企業横断的な労組があり、職務を決めて採用し、その難易度(習熟度)に応じた「職務給」が原則なのに対し、日本は年功序列の終身雇用という日本型雇用が多く、労組も企業別で、正社員の賃金は、長期雇用を前提に、能力や経験を評価した「職能給」が中心という根本的な違いがある。正社員と非正規間の「同一」の評価が難しいと指摘される。逆に、正社員・非正規の待遇に格差をつける理由を説明しやすくするため、「正社員と非正規の仕事や役割をはっきり分ける『職務分離』が広がり、かえって格差が固定化するのでは」(全国紙社会部デスク)といった懸念も出る。

   そもそも、単純に非正規の待遇を改善すれば人件費全体が膨らむことに、企業側の警戒感が強い。「非正規労働者の処遇改善を生産性向上につなげ、収益増を図る発想の転換が必要」(読売2016年12月28日社説)というのが大きな目標で、中長期的に「重要なのは非正規で働く人たちが仕事に必要な技能を高め、貢献度を上げられるようにすること」(日経12月22日社説)なのは当然としても、現実には「解釈や運用の仕方によっては正社員の賃金を引き下げる理由にされるリスクもある」(毎日12月27日社説)という指摘は多い。

   わずか十数ページの指針案で明確に判断できる事例は限られ、労使が判断に迷うことが予想される。最終的に裁判の判例の積み重ねにゆだねることになるが、「労働者側が法廷で『格差は不合理』と立証するのは難しい」(労組関係者)こともあって、現時点で、格差是正がどこまで、どんなテンポで進むかは不透明だ。

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