2024年 4月 20日 (土)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち NYの共和党支持者が抱く孤独と不安

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   トランプ大統領就任式の日(2017年1月20日)、私の友人ベッツィ・ランカスター(65)の職場(マンハッタンにあるアジア関係の非営利団体)では、特別に大きなスクリーンでテレビ中継を見ることができるように配慮されていた。ベッツィはトランプ支持者なのに、その朝、浮かない顔だった。

「就任式は見ないで、仕事をしているわ。99%の人たちが新しい大統領の誕生を祝う気になれないのに、孤独を味わうのは嫌だもの」
  • ニューヨーカーとしては数少ない、トランプ支持者のロブ&ベッツィ・ランカスター
夫妻(自宅で撮影)
    ニューヨーカーとしては数少ない、トランプ支持者のロブ&ベッツィ・ランカスター 夫妻(自宅で撮影)
  • ニューヨーカーとしては数少ない、トランプ支持者のロブ&ベッツィ・ランカスター
夫妻(自宅で撮影)

FOXニュースとCNNを交互に

   99%というのは極端だが、ニューヨーカーは民主党支持者が圧倒的に多く、今回、79%がヒラリーに、4年前は81%がオバマに投票した。

   私はあえて、トランプを支持するベッツィの夫ロブ(66)と一緒に、就任式と一連のテレビ番組を見ることにした。ロブが好む保守派のFOXニュースを中心に見ていたが、時々、リベラル派のCNNにチャンネルを変えた。トランプがフェイク(嘘)ニュースと罵った、あのテレビ局だ。

   連邦議会議事堂前の映像が現れ、「やっと自分たちの声に耳を傾けてもらえると、変化を求めて投票した人たちが、この歴史的瞬間に立ち合うために全米から集まってきます」とFOXニュースのキャスターの声が流れる。

   大統領選の山場と言われるスーパー・チューズデーの日(2016年3月1日)も、ロブとベッツィと一緒にテレビを見たが、品がなく挑発的な言動を繰り返すトランプに呆れ返っていた。「メキシコとの国境に壁を作り、費用はメキシコに持たせる」という発言にも、反発を感じた。彼らの息子はメキシコ移民の女性と結婚したばかりで、国境からわずか5、6キロの距離に住んでいる。

   ヒラリーを毛嫌いしているロブは、共和党候補に選ばれたトランプを支持せざるを得なかったが、トランプの発言を聞いているうちに、「きれいごとを言うだけで実行しない政治家と違い、彼にはリーダーシップがあり、現状を変える力があるかもしれないと、希望を抱くようになった」と言う。

   就任式前に、礼拝のために教会に入る様子が画面に映り、「トランプ次期大統領のために子供を聖歌隊で歌わせたくない、という親もいましたが、伝統だから、と教会側が説得しました」といった説明も流れる。

「これからどうなるかは、わからない」

   その後、ホワイトハウスの前にオバマ大統領が妻と並んで立ち、トランプ夫妻を迎え、握手と頬ずりを交わし、祝福の言葉を述べる。「意見が対立していても、党派が違っても、こうして敬意を払い、新しい大統領を迎え入れる儀式を行う。この国の素晴らしい伝統だね」とロブがつぶやく。

   記者がトランプに向かって、「移民政策を覆すつもりですか」と質問すると、ロブが声を荒げた。

「就任の祝いの時なのに。そんなことを聞くなんて。トランプにもオバマにも失礼じゃないか」

   トランプが聖書に手を当てて宣誓し終えると、ロブは「う~ん」と満足そうに唸り、演説を終えたときには、祈るようにつぶやいた。「とっても大胆な演説だ。何とか、うまくやり遂げてほしい」

   トランプのことを語りながら、ロブが繰り返し私に言った言葉は、

「It remains to be seen.(これからどうなるかは、わからない)」

だった。トランプを支持しながらも、この国を託すことへの期待と不安が交錯している。

   その夜、ベッツィが街頭から持って帰ってきたフリーペーパー「メトロ」の表紙。下にホワイトハウス、上にはトランプのあの黄色い特徴的な髪型。顔には目も鼻もなく、「?」が1つ大きく描かれていた。

   期待と不安の程度は大きく違っても、それがアメリカの、そして世界の人々の共通の思いだろう。反トランプ派は不安どころか、恐怖と怒りを感じてもいる。

   これまでもこの国が激しい分裂を克服してきた底力を信じ、その発現を祈る気持ちからか。ロブも私も新大統領誕生のあと、就任式でも合唱された愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を何度も口ずさんでいた。(敬称略。随時掲載)


++ 岡田光世プロフィール
岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社 のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓 を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1 弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法 の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育 事情」(ともに岩波新書)などがある。


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