混合介護でウィンウィンの好循環? 「逆にレベル悪化」の懸念も

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   保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」に続いてということか、「混合介護」が注目されている。公的な介護保険を使ったサービスと使わないサービスを組み合わせて利用しやすくする、というもので、東京都豊島区が国家戦略特区制度を利用して始める方針を打ち出している。

   現行の介護保険制度では、「保険を使ったサービスと保険外のサービスを同時に利用できない」と、よく説明される。この説明文は、混合介護推進の論陣を張る日経新聞(電子版)の「特区で『混合介護』検討 都が区域会議で表明」(2016年12月2日)の記事での表現で、日経は17年1月16日朝刊でも「混合介護解禁」の見出しを使用、といった具合だ。

  • 好循環か、悪化か(画像はイメージ)
    好循環か、悪化か(画像はイメージ)
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小池知事が特区制度で推進を表明

   ただ、この表現はやや誤解を招く恐れがある。介護保険法は、自己負担が1~2割の保険サービスと全額自己負担の保険外サービスの混合介護を禁じているわけではない。ただ、厚生労働省が通知で「明確に区分」するよう求めており、両サービスを「同時・一体的」に提供することはできないということだ。具体的には、費用を分けて請求する必要があるということになる。利用者が想定外のサービス料を請求されることがないように、というのが目的だ。医療の混合診療に比べて、かなり柔軟な制度になっている。

   では、何が問題なのか。例えば、ヘルパーによる訪問介護では食事の支度や洗濯などは利用者本人のものに限られ、保険外の同居家族分の家事支援はできない。これが、混合介護の規制が緩められれば、家族分の食事も作ってもらえる(家族分は全額自己負担)。あるいは、そもそも庭の手入れ、ペットの世話、家具の移動などは介護保険の対象外だが、訪問介護のついでに、別料金で頼めれば助かるといったニーズもあるだろう。

   ここにきて注目されるようになった直接のきっかけは、2016年9月5日に公正取引委員会が発表した「介護分野に関する調査報告書」で、介護市場の規制改革の柱として「混合介護の弾力化」を提起した。これに呼応する形で10月6日、政府の規制改革推進会議が「介護サービス改革」を当面の重要事項に決定。11月10日には小池百合子・東京都知事が特区制度によって混合介護の推進を表明――と、トントン拍子で話が進んでいる。

賃上げなどを通じた介護人材の確保が急務

   先頭を切るのは小池知事の衆院議員時代の地元、豊島区。2017年度の区の予算に、有識者会議を設けるなどサービス提供の仕組み作りに取り組む費用約600万円を計上する予定で、早ければ17年度中にも全国初の導入を目指すという。

   混合介護「解禁」により、利用者にとってはサービスの選択肢が広がり、事業者は工夫して多様なサービスを提供し、料金も柔軟に設定できるようになるなど、収益を上げやすくなる。「介護産業」として成長することは、介護職員の賃金増にもつながる――という「三方一両得」のウィンウィンの好循環が見込めるというわけだ。

   確かに、介護の今後の需要増加が見込まれる中で、財政状況は厳しく、担い手も足りないという深刻な現実がある。介護給付費は2015年度の約10兆円から25年度に約20兆円に増える見通しだ。一方で財政は厳しく、介護人材の処遇改善のために公定価格である介護報酬を大きく引き上げるのは難しく、厚労省の調べでは、15年度の介護職員の平均月給は約29万円で全産業平均より低水準だ。都内の「要介護認定者」は25年に今より20万人増えて77万人に達する見込みの一方、介護の人材は約38万人不足するとの推計もある。賃上げなどを通じた介護人材の確保が急務となっているという事情があるのだ。

サービス内容が複雑化

   だが、サービス多様化→利用者増→事業者の収益向上→給与増......といったバラ色の好循環に本当になるのか。

   そもそも、「混合」となればサービス内容が複雑化し、高齢者が保険対象のサービスか保険外かを判断するのは簡単ではない。その結果、よく理解しないまま契約を結ばされるのでは、といった懸念の声が介護現場には多い。保険外サービスを頼めない低所得者層の介護レベルが悪化する心配も指摘される。

   産業としての活性化にも疑問がある。厚労省によると、全額自己負担で保険外サービスを利用している人の割合は全体の1.3%に過ぎず、規制を緩和してもどの程度増えるか。専門家は「結局、混合介護を始める事業者が増えても、利用できるのはお金に余裕のある人だけで、介護市場をどこまで拡大させるかは未知数。逆に、保険外サービスの料金が値崩れし、業界が疲弊する恐れもある」と指摘する。

   高齢者が最期まで尊厳を保ちながら生活できるようにするという介護保険の原点に立って、慎重に議論を進める必要がありそうだ。

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