2024年 4月 17日 (水)

日本が孤立の恐れも? AIIBが「トリプルA」の衝撃

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   中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)が、米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスから最上位の「Aaa(トリプルA)」の格付けを得た。低金利で債券を発行して資金を調達できることを意味する。主要7か国(G7)でAIIBに参加していないのは日米だけという状況の中で、「中国主導では信用力に問題があり、高い格付けが得られずに資金調達に苦労する」と牽制してきた日本の思惑は、完全に外れたといってよい。途上国金融を巡る日米vs中国の争いは、ひとまず中国優位で「勝負あった」格好だ。

   ムーディーズの決定は2017年6月29日。理由として上げたのは、豊富な資金力と運営態勢。まず、資金だが、自己資本が1000億ドル(約11兆円)と「同じ格付けの他の開発金融機関よりも厚い」としたほか、6月末の投融資は約25億ドルと資本の2.5%にとどまり、大半が低リスクの世銀などとの協調融資であることから、手堅い運営と判断した。手元資金の管理も「他の開発金融と同等かそれより厳格」と認めた。

  • 日本はAIIBとどのような関係を持つことになるのか(画像はAIIB公式ホームページより)
    日本はAIIBとどのような関係を持つことになるのか(画像はAIIB公式ホームページより)
  • 日本はAIIBとどのような関係を持つことになるのか(画像はAIIB公式ホームページより)

「一帯一路」との関係

   AIIBは中国を最大の出資国としてロシア、インド、英国、ドイツなど57か国で2016年1月に発足。それから1年半で「加盟承認国は80か国・地域まで増えた」(金立群総裁)。日米主導で戦後のアジアのインフラ整備をけん引してきたアジア開発銀行(ADB)の加盟国67か国・地域を大きく上回っている。ただ、現状ではAIIBの職員は100人程度にとどまり、ADBの約3000人に遠く及ばず、融資案件の発掘も簡単ではないので、融資実績はまだ少なく、協調融資など「安全運転を余儀なくされている。

   中国の習近平主席は、陸と海のシルクロード経済圏構想「一帯一路」の推進を提唱している。インフラ投資を通じ、アジアからアフリカ、欧州につながる地域の発展を目指す巨大プロジェクトだ。AIIBは、公式には「一帯一路」の実行機関ではなく、「政治的に中立な国際機関」(金総裁)。とはいえ、前記のとおり、現状の手堅い運営は、案件発掘など事業が軌道に乗っていないというのが実態で、本質的にはAIIBの狙いは「一帯一路」と不可分に結びつき、インフラ整備の資金を供給することにあると受け止められている。

   AIIBは欧州、アフリカ、南米などアジア以外にも参加を積極的に働きかけており、日米の分は悪い。それだけに、日米にとって、AIIBの最上位格付けの取得は衝撃だった。というのも、国際金融の世界では、信用力の高い日米が加盟しないと、高い格付けを得るのは難しいと見られていたからだ。日本は、AIIBにはADBのような融資案件を審査する常設の理事会がないことなどから「運営が不透明だ」と批判し、加盟を見送る理由にもしてきた。これについてムーディーズは「組織が成熟するにつれ、融資やリスク管理方針は疑いなく改善する」との見通しを示し、「中国など拠出割合が大きな国から独立して運営しつづけられる前提での評価」だと断りつつも、基本的には問題なしと判断したわけだ。

   実は、AIIB自身、格付けについては決して楽観していたわけではない。6月17日に年次総会(韓国・済州島)の際に会見した金総裁は、格付けについて「年内に3つの格付け会社から取得する」と、慎重な言い回しをしていた。このころ、金融界では「ムーディーズが5月に中国の長期国債格付けを引き下げたので、中国が約3割を出資するAIIBにも高い格付けは出ないのではないか」との見方が強かった。

米中が手を握るという「最悪の事態」

   いい方向で予想が裏切られた形のAIIBは、「一流の国際開発金融機関」として「お墨付き」を得たと最大限アピールし、今後の体制整備をさらに進めることになる。

   日本はどう対応していくべきか。ADB自体は、2030年までにアジアで約2900兆円のインフラ需要があると試算していて、これをADBだけでまかなえるはずもなく、AIIBとの協力姿勢を示している。日本も、ここまではいいとして、一方で中国は鉄鋼など国内の過剰な生産能力の「はけ口」としてアジアのインフラ整備を活用し、自国のインフラ技術の輸出にもつなげたいという思惑があり、今後も、中国の露骨な覇権拡大の行動を警戒する周辺国への働きかけなどを含め、中国、そしてAIIBを牽制していく考えとされる。

   米国も、米主導の国際秩序への中国の挑戦を警戒しているが、一方で、朝鮮情勢を含めた国際関係全般の中で、米中協調の必要もあり、とりわけ、「多方面の課題を組み合わせて『取引』で利益を得ようとするトランプ外交で、米中が手を握るという最悪の事態も考えておく必要がある」(全国紙経済部デスク)。

   日本が外から批判するだけでは影響力が限られるのも事実だ。安倍晋三首相は6月5日に東京都内であったベトナム、ラオスの首相やアジア各国の政府高官らが参加した国際会議で、一帯一路について「日本も協力していきたい」と述べた。これは、中国との関係改善のシグナルを送ったものと受け止められるが、AIIBの扱いを含め、具体的にどう対応していくかは未知数。

   「日米はそろそろAIIB加盟の是非を真剣に協議してはどうか」(日経新聞社説、6月21日)との指摘もある中、中国とどう対峙していくのか、安倍外交の課題であり続ける。

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