2024年 4月 20日 (土)

いつの間にか影が薄くなった「報復」読売・産経の書きぶりも微妙に変遷

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   韓国に対して日本政府が発動した半導体材料などの輸出規制強化を巡り、日韓の対立が泥沼化している。

   こうした中、新聞報道の推移をたどると、日本側の微妙なニュアンスの変遷もうかがえる。少し時間をさかのぼりつつ、状況を整理しよう。

  • 文在寅大統領も「必要な対応をせざるを得ない」との立場を示す(青瓦台ウェブサイトより)
    文在寅大統領も「必要な対応をせざるを得ない」との立場を示す(青瓦台ウェブサイトより)
  • 文在寅大統領も「必要な対応をせざるを得ない」との立場を示す(青瓦台ウェブサイトより)

「事務的説明会」と張り出す徹底ぶり

   日本の措置は、半導体洗浄に使う「フッ化水素」などの3品目の韓国への輸出について、これまでは最大3年間分の輸出許可を1度に取れたが、今後は契約1件ごとに出許可を取るよう義務付ける。これらの品目は日本が世界で50%以上、ものによって70%を超えるシェア(市場占有率)を持ち、サムスングループやLGグループなどの韓国企業も、ほぼ全量を日本から調達している。にわかに他国から調達するのは困難で、韓国の半導体生産に大きな打撃になるのは必至だ。これは韓国製半導体などのユーザーである日本企業への影響も避けられない。

   さらに、第2弾として、輸出先として大量破壊兵器の拡散の懸念がない「ホワイト国」(現在27カ国)の指定から韓国を外すことも検討している。早ければ8月中旬にも実施する見通しで、武器などに転用可能な品目について、ものによって契約ごとの輸出許可が必要になる可能性がある。

   今回の措置について、日韓の烈しい摩擦に発展し、12日には日韓の実務書の会議が経産省で開かれたが、日本側は「協議ではない」として、事務机を並べた殺風景な会議室を会場にし、グリーンボードにわざわざ「事務的説明会」とパソコンで打ち出した紙を張り出す徹底ぶりで、日韓関係の冷却ぶりを象徴する場面になった。

   韓国側の輸出管理上の問題はそれとして、どこまでの「違反」があったのか、韓国の対応は適切だったか、今後どう厳格化していくかなど、まさに実務的に詰めるべき問題は多いが、今回の問題のポイントは、輸出管理という通商上の手段の行使でありながら、徴用工問題への「事実上」の対抗措置としての側面が存在することだ。

当初は「対抗」との報道が前面に出たが

   世界貿易機関(WTO)の協定では、「安全保障上の輸出規制」は認められているが、政治的なテーマに行使するのは協定に抵触しかねない。米トランプ政権が日本を含む鉄鋼製品について「安保」を口実に報復関税を乱発して世界の反発を買っているのはその代表例だ。大阪で6月30日閉幕した主要20カ国・地域(G20)首脳会議で、安倍晋三首相が議長として「自由で公平かつ無差別な貿易」を謳った「宣言」をまとめた。その直後の日本の措置に、米有力経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」(7月2日付)のコラムは「トランプ流手法」と表現した。

   日本政府は、「(徴用工問題への)対抗措置ではない」(菅義偉官房長官)と主張するが、一方で、背景として徴用工問題を挙げて「信頼関係が著しく損なわれた」から輸出規制強化に踏み切ったという説明を繰り返している。あえて、徴用工問題に言及した点がポイントで、マスコミも当然、ここに飛びついた。

   事前の様々な観測記事などは別にして、今回の報道は、直接には6月30日、産経が1面トップで規制措置の実施する方針を大きく前打ちで報じ、翌日7月1日の朝刊、夕刊で他紙は一斉に追随したが、この時点で全紙が「徴用工問題への(事実上の)対抗」と書き込み、見出しにも取っていた。当然だろう。

   ところが、その後、政府は「対抗措置」の側面の火消しに走ったようで、新聞などの報道も、変わっていく。安倍政権を基本的に支持する読売と産経の報道ぶりにみてみよう。

読売と産経はどう「転進」したのか

   読売は2日朝刊時点で3面の上半分をほぼ丸々つぶす「スキャナー」コーナーで「徴用工 事態打開を狙う」の大見出しを横に張って解説し、3日、4日朝刊でも、菅長官の会見や党首討論での首相発言などで、信頼関係が損なわれた理由として徴用工問題を挙げたことなどを書き込んでいた。ところが規制発動当日の4日の夕刊は2面トップで規制発動を報じた中に、「徴用工」の3文字が消え、その後も韓国側の主張など最低限、触れるだけで、日本の姿勢として「対抗措置」との表現は姿を消している。

   産経は発動後の5日朝刊2面の西村康稔官房副長官の会見記事の中で「いわゆる徴用工訴訟で......韓国が対応策を示さないため、事実上の対抗措置に踏み切った」と明快に書き、9日1面の文大統領が会見で規制撤回を求めたことを伝える記事でも「両国間の信頼が損なわれる原因となった......徴用工判決への具体的対応策には触れなかった」と、わざわざ書いていた。ところが、10日からは日本の立場として徴用工問題での対抗措置という記述はほぼ姿を消す。

   産経の姿勢転換は社説に相当する「主張」にはっきり表れている。2日、真っ先に取り上げ、徴用工問題や自衛隊機への火器管制レーダー照射などを「反日的な行動」として列挙し、「抗議を重ねても馬耳東風を決め込む韓国に対し、法に基づく措置で対処するのは当然だ。国家の意思を毅然と示す意味は大きい」と評価し、政府が「対抗措置ではない」と説明していることには「韓国相手に曖昧な姿勢を取るべきではない。信頼関係が損なわれたというなら、信頼回復に必要なことを具体的に示し、韓国側に対応を迫るべきだ。そうした強いメッセージが必要である」「改善がなければ対応を強める。その姿勢を貫かなければならない」と、むしろ徴用工問題の対抗であることを明確にするよう求めた。

「報復」との見方が薄れていく

   ところが、11日に再度取り上げ、「韓国側は、日本の措置は『徴用工』問題をめぐる報復であり、事実上、WTO協定違反に当たるという認識を示した。韓国はWTOへの提訴も検討している」と、韓国の主張として書いただけで、ひたすら輸出管理の問題だとする日本政府の主張に沿い、政府を全面的に支持している。

   日韓実務者の12日の「事務的説明会」の報道(13日朝刊)では、朝日が「日本政府は、韓国人元徴用工への損害賠償問題の解決策が6月末までに示されなかったり、輸出管理に関する「不適切な事案があったりし、『信頼関係が著しく損なわれた』などとして......」と、規制発動の背景を説明したが、毎日、日経なども徴用工問題にはほとんど触れていない。問題を「輸出管理」に絞る政府の狙いは、国内向けにはほぼ成功した形だ。

   ただ、今後の日韓関係、また世界の中での日本の立場を考えて、今回の措置に疑問を呈する声が、政府に近い人たちからも出ている。

   元駐韓国大使で「文在寅という災厄」の著書もある武藤正敏氏は、輸出管理の問題自体で韓国を厳しく批判し、日本政府の対応を評価しつつ、「日本政府は韓国の国民感情をいたずらに刺激しない方が得策である。......日本政府は導入に当たり、文大統領がG20で安倍総理との会談もできずに帰国した2日後に突如公表した。韓国国民はこれを『後ろからいきなり殴られた』と解釈し、日本への国民的反発を強めることが懸念される」(DIAMOND ONLINE、7月12日)と指摘。4日の「日テレNEWS24」に出演した際は、「今のやり方で韓国の国民が『文在寅大統領けしからん。日本ともっとちゃんと対話をしないといけない』という雰囲気になってくれるかどうか。そこは若干、懐疑的に見ている」と、懸念を示している。

   「韓国による国際世論の形成には警戒が必要である。日本が反自由貿易主義だと誤解されないよう世界に対する情報発信が欠かせない」。産経も11日の「主張」で、そう戒めている。

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