2020年 1月 29日 (水)

稼働可能なYS-11が静態保存になるのは「東京五輪の影響」? ネット拡散の噂、科博に確認すると...

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   戦後初めて就航した国産旅客機であるYS-11の数少ない保存機の、羽田空港からの解体移設が始まっている。これは茨城県の展示施設に移設されるためだ。

   ところが、折しも2020年に東京五輪を控えているため、「五輪のせいで貴重な近代化遺産のYS-11が追い出された」という風説がネットで拡散されていた。この噂は本当なのか。そしてなぜ羽田を離れることになったのか――。J-CASTニュースが調べてみると、重厚長大な遺産を保存する難しさが背景にあった。

  • 羽田空港で保管されていたYS-11量産1号機(国立科学博物館提供)
    羽田空港で保管されていたYS-11量産1号機(国立科学博物館提供)

「ことさらに五輪だからというわけではない」

   YS-11は1964年に就役。量産1号機のJA8610は運輸省航空局で使用され、退役後、国立科学博物館(科博)が保有し、羽田空港の格納庫で保存されていた。

   しかし2019年11月、羽田空港から茨城県筑西市のテーマパーク「ザ・ヒロサワ・シティ」への移設が決まったことが報じられ、解体・移設作業が始まっている。当時、「五輪に向けて羽田空港の拡張が行われていて、YS-11の保存場所がなくなっために移設」という噂がネットのSNSから広がった。

   これは本当なのか、YS-11の担当・保管を行ってきた科博産業技術史資料情報センター長の鈴木一義氏が取材に応じ、五輪の影響ではないとした。鈴木氏によれば、当該のYS-11は1999年に退役後、科博が所管し、当時国際化前で余裕があった羽田空港周辺での航空宇宙博物館構想で、展示の中核になることが期待されていた。しかし、03年以降、羽田空港の国際化による拡張が進み、もともとの保管施設は解体されたため、国土交通省航空局や航空会社のハンガー(格納庫)を借用し保存してきたという。

   科博では04年頃から羽田での博物館構想は難しいとの認識を持ち、本機の移転を検討。国内各地の博物館や空港への移設などが検討されたが頓挫し、19年8月にザ・ヒロサワ・シティとの移転合意が結ばれたという経緯があった。

「羽田空港では03年以降拡張工事や施設増設が行われており、当時から羽田空港内での保管場所の確保、またテロ対策の影響もあって公開も難しい状況が続いていました。長年にわたり検討を行ってきた結果が、ザ・ヒロサワ・シティへの移設となったものです。ことさらに五輪だからという訳ではありません」(鈴木氏)

近代化遺産の価値はどこに?

   しかしこのYS-11は、量産1号機で日本機械学会や日本航空協会の各遺産認定を受け、国立科学博物館が年4回の点検を継続して行い、エンジン・計器は稼働可能な状態の稀有な機体だった。ザ・ヒロサワ・シティでは専用の展示施設が建てられる計画だが機器は稼働しない、静態保存での展示となることから、残念だという航空ファンの感想も生じた。機体について鈴木氏は

「油圧や配線などは解体前の状態に戻しませんが、その状況を記録して元の状態に戻せるようにしてあるので、YS-11量産初号機の価値を維持すると考えています。また今回の解体により、量産初号機ゆえの製造時の苦労などによる技術的痕跡も見つかっており、そうした情報や保存してきた映像などで当該機の価値をよりわかりやすく伝えることができると考えています」

と説明し、動態でなくとも記録などでYS-11の保存価値は保たれるとした。ザ・ヒロサワ・シティは既に鉄道車両や自動車の保存展示の実績があり、国立科学博物館はザ・ヒロサワ・シティと連携・協力して機体を保存し、また展示公開を行っていくという。

   当初は羽田で保存展示の構想がありながらも、退役から約20年もの間非公開で、地方の民間施設での静態保存が決まったYS-11量産1号機。しかし現状では、官民連携の文化財活用の事例としても、ザ・ヒロサワ・シティでの保存・展示がベストだと鈴木氏は取材に答えた。

   飛行機のような大きな近代化遺産はもとより収集・保存が難しいというハードルがあるが、これまでにもYS-11のメンテナンス時に蓄積されたデータ等は産業遺産保存に活用されている。鈴木氏によれば機体のみならず設計時の輸送機設計研究会資料・風洞実験模型・飛行検査器具などの周辺資料の収集保存もまた本機の意義を伝えるために必要なことだそうだ。

   現役当時そのままの状態を保つのは困難にしても、研究と資料の保存によって総合的に近代化遺産の価値は保たれるべきもので、機体など「モノ」の状態がどうあるべきかはケースバイケースである、というのが、重厚長大な近代化遺産の保存において、折衷的な解決策だろう。

(J-CASTニュース編集部 大宮高史)

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