2024年 4月 24日 (水)

新型コロナでホテルが「日本人専用フロア」 予約サイトからは取り下げも...法的にはOK?NG?

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   新型コロナウイルスの感染対策だとして「日本人専用フロア」の宿泊プランを提供した関西地方のあるホテルに、インターネット上で賛否の声があがった。ホテル公式サイトのほか、「楽天トラベル」や「じゃらんネット」といった宿泊予約サイトに掲載していたが、2020年3月9日までにこれらのサイトで同プランは予約できなくなっている。

   楽天トラベルの担当者は取材に対し、「楽天の人種に関するポリシーに反するプランだと判断した」と回答。じゃらんネットの担当者は「該当の宿泊施設の意図を確認し、厳正に対処する」とした。一方、弁護士に法的観点で問題があるかどうかを聞くと、大きく3つの論点を提示。関係し得る条文をあげながら、いずれの条文の趣旨にも「反するとまでは言えない」もしくは「反するものではない」と考えられる、という見解を示した。

  • ホテルのある宿泊プラン、アリなのか(写真はイメージ)
    ホテルのある宿泊プラン、アリなのか(写真はイメージ)
  • ホテルのある宿泊プラン、アリなのか(写真はイメージ)

「区別」として導入と説明

   ホテル公式サイトの「日本人専用フロアプラン」説明欄には「宿泊業として一番多くの質問としての対策としてご用意しました」として、販売の背景をこう書いている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策で外出の自粛が広がる中、それでも泊りがけで出かける必要がある人もいるとし、一方で訪日外国人の中にも、日本の感染対策を万全だと思ってない人がいるだろうとする。そうした社会事情を勘案したのが今回のプランで、学生割引や女性専用フロアの存在を引き合いに、「区別」としての日本人専用フロアを作ったという。

   公式サイトの説明によれば、利用条件は日本国籍があることで、パスポート確認をする場合もある。ロビーなど共用部分は分けられない。海外の予約サイトには載せておらず、「苦肉の対策の一環としてご検討いただければと存じます」と提案している。

   利用可能期間は3月1日から4月11日まで。状況によっては延長もありえるという。宿泊予約サイト「楽天トラベル」や「じゃらんネット」でも販売された。

   新型コロナウイルス感染拡大を受け、各地でホテルの利用者が減少。キャンセルも増加し、ホテル業界は苦しい状況が続く。そうした中で販売された同プランだが、ツイッター上では3月8日ごろから、

「人種による区分けをサービスの一環だと?ふざけすぎ」
「宿泊を拒んでいるわけではないから違反にはならない...ってことかな」

などと疑問の声があがった。「差別だ」などとする向きもあるが、一方で、

「見て貰えばわかると思うけど差別の匂いはしないんだよなぁ」
「『外国人と別けろ』と言うのはほとんどの場合日本人の客です。ホテルに文句を言うのは変な話」

と理解を示す声もある。

楽天「人種ポリシーに照らして、不適切なプランだと判断」

   J-CASTニュースは9日、楽天トラベルを運営する楽天に、今回のプランが規約違反などに当たる可能性はないか質問したところ、数時間後に「現時点で閲覧できなくなっています」と返答があった。

   楽天担当者によると、「楽天の人種ポリシーに照らして、不適切なプランだと判断しました」として、同社がホテル側に取り下げを依頼した。すると「依頼した時点でホテルはプランを自主的に取り下げておりました」という。

   「楽天グループ人権ポリシー」には「無差別と機会均等」の項目があり、「楽天グループは、すべての人に、平等に機会を提供します。人種・国籍・性別・婚姻歴・子女の有無・宗教や政治思想・年齢・障害の有無・性的指向・性自認などいかなる要因によっても差別しません」と掲げている。

   じゃらんネットからも予約はできない状態となっている。同サイトを運営するリクルートライフスタイルの担当者は10日、取材に対し「『じゃらんnet』では、今回のケースに限らず差別的な行為を禁止しております。該当の宿泊施設の意図を確認し、厳正に対処させていただきます」と答えた。

   ホテル公式サイトでも同プランは閲覧できなくなった。

法的には?弁護士の見解

   国籍を利用条件にあげた今回の「日本人専用フロアプラン」だが、法的な問題はあったのだろうか。弁護士法人サンク総合法律事務所の樋口卓也代表弁護士は取材に対し、大きく3つの論点から見解を示した。1点目は憲法14条1項の平等原則に反するかどうか。

「この点、憲法14条1項は、事柄の性質に応じた合理的な区別的取扱いは許容されており、不合理な差別的取扱いのみを禁止していると解されています。

では、合理的な区別的取扱いか不合理な差別的取扱いか、どのように判断すればいいでしょうか。この点、諸説ありますが、目的が正当で、目的達成のための方法が合理的か否かという基準で判断することとします。

まず、当該宿泊プランの目的を考えてみます。例えば、日本人の中には、新型コロナウイルスの感染を恐れ、外国籍の方と接触することに不安感を抱く方もいます。このような方は、可能な限り、ホテル側に外国籍の宿泊者と接触しないような対応を希望することが想定されます。逆に、日本における新型コロナウイルス感染対策に不安を抱いている外国籍の宿泊希望者が、日本国籍の宿泊者と接触しないような対応を望むこともあり得ます。

とすると、新型コロナウイルスの感染が世界的に広がっており、その対策についても各国で区々となっていることに照らし、日本人宿泊希望者と外国籍の宿泊希望者、それぞれの希望に応じて、お互いの接触を避けるという目的で『日本人専用フロア』を設けたものと考えられます。新型コロナウイルスの急激な感染状況を考えると、このような目的は正当と言えるのではないでしょうか。

そして、その方法も、一律に外国籍の宿泊希望者の利用を拒否するものではなく、あくまで『日本人専用フロア』の利用のみが制限されるにすぎません。期間も、3月1日~4月11日までと限定されており、延長が認められるとしても、新型コロナウイルスの感染状況に応じるものとされ、必要かつ限定された期間での延長と考えられます。

また、あくまで宿泊部屋が存在するフロアへの出入りのみ区別するものであり、ロビーやレストラン等の利用については何ら区別されていないことからすると、外国籍の宿泊者の利益が大きく損なわれるものとは言えないと解されます。とすれば、上記の目的を達成するための方法として、合理的な方法と言えるのではないでしょうか。

よって、『日本人専用フロア』というプランを設けることは、合理的な区別的取扱いにあたり、憲法14条1項の平等原則に反するとまでは言えないと考えられます」

国際人権規約、旅館業法の観点は?

   2点目は、国際人権規約や人種差別撤廃条約との関連。下記2つの条文が関係するという。

国際人権B規約第26条「すべての者は、法律の前に平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等の保護を受ける権利を有する。このため、法律は、あらゆる差別を禁止し及び人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生又は他の地位等のいかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護をすべての者に保障する」

人種差別撤廃条約第5条「第2条に定める基本的義務に従い、締約国は、特に次の権利の享有に当たり、あらゆる形態の人種差別を禁止し及び撤廃すること並びに人種、皮膚の色又は民族的若しくは種族的出身による差別なしに、すべての者が法律の前に平等であるという権利を保障することを約束する。(中略)(f)輸送機関、ホテル、飲食店、喫茶店、劇場、公園等一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利」

   樋口弁護士は、これらに反する対応か否かが問題となり得るとして、次のように示す。

「これら規約や条約も不合理な差別のみを禁止するものであり、上記のとおり、『日本人専用フロア』というプランを設けることは不合理な差別とまでは解されず、これら規約や条約に反する対応とまでは言えないと考えられます」

   3点目は、宿泊拒否を制限した旅館業法5条に反するかどうか。これについても樋口弁護士は、次の通り条文の趣旨に反するものでないと考えられる、との見解を示した。

「旅館業法は、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もって公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的としており、その第5条において、
『第5条 営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染病の疾病にかかっていると明らかに認められるとき。
二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。』
と定めております。

しかし、『日本人専用フロア』プランは、宿泊を希望する外国籍の方の宿泊自体を拒否するものではなく、本条の趣旨に反するものではないと考えられます」
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