2020年 5月 28日 (木)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
「危険な自由」求め、コロナ外出禁止への反対デモ拡散

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   ニューヨークの街から一瞬で人影が消え、音が消えた時、私は正直、驚いた。「自由」を奪われることに強い抵抗を覚えるはずのアメリカ人のほとんどが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて出されたニューヨークの市や州の命令におとなしく従い、自宅にこもった。

   トランプ大統領は2020年3月13日、全米に非常事態を宣言。ニューヨークでは映画館や劇場など文化娯楽施設が閉鎖。レストランはテイクアウトとデリバリーを除いて営業停止となった。不要不急の外出は禁止され、社会に不可欠な仕事以外は在宅勤務、と相次ぐ不自由さを受け入れ、じっと耐えしのんでいる。

   しかし今、「自由」を求めて、全米で人々が立ち上がった。感染抑制のための自宅隔離や外出禁止などの厳しい措置に対して、抗議デモがアメリカ各地に広がっている。

  • 4月20日にペンシルベニア州ハリスバーグで起きたデモ(写真:AP/アフロ)
    4月20日にペンシルベニア州ハリスバーグで起きたデモ(写真:AP/アフロ)
  • 4月20日にペンシルベニア州ハリスバーグで起きたデモ(写真:AP/アフロ)

共和党員がネットで参加を呼びかけ

   2020年4月15日にミシガン州で行われたデモでは、「I prefer dangerous freedom over peaceful slavery.(私は平和な奴隷より危険な自由を好みます)」と書かれた大きなサインが掲げられた。第3代米大統領(1801年 - 1809年)で、「アメリカ独立宣言」の起草者のひとり、トーマス・ジェファーソンの有名な言葉だ。

   グレッチェン・ホイットマー州知事が自宅待機命令を4月30日まで延長したことに反対し、大勢の抗議デモ参加者が州議会前に集まった。

   抗議デモはミネソタ、ペンシルベニア、ウィスコンシン、ノースカロライナなど米大統領選で共和・民主両党が激戦を展開する州で行われており、ロイターの報道によると、共和党の複数の議員やトランプ大統領の選挙陣営の関係者が組織したり煽ったりしていたことが、関係者の話で明らかになった。

   実際には、共和党議員やトランプ陣営の関係者が、ソーシャルメディアで参加を呼びかけていた。参加者のなかには、トランプ支持を訴え、「人工妊娠中絶反対」や「銃規制反対」などを唱えるプラカードを手にする人も目立った。

   民主党支持者らは、「まるでトランプ支持者の集会だ」、「コロナと無関係の主張だ」と批判する。

マスクもせず、距離も取らないデモ参加者

   トランプ氏は一連の抗議デモを受けて、「LIBERATE MINNESOTA!(ミネソタを解放せよ!)」、「LIBERATE MICHIGAN!(ミシガンを解放せよ!)」、「LIBERATE VIRGINIA and save your great 2nd Amendment. It is under siege !(ヴァージニアを解放せよ。そしてあなたたちの偉大な憲法修正第2条を守れ。絶えず批判にさらされている!)」などと大文字で強調し、立て続けにツイートした。憲法修正第2条は、武器を保有・携帯する権利を保障している。

   デモでは、車の中から抗議していた人たちもいたが、集まった参加者の多くはマスクなどで鼻や口を覆わず、相手との距離(社会的距離)も取っていないようだ。報道では、抗議に反対する人たちと大声で言い争う姿も見られた。

   抗議デモに対して、「感染拡大を助長し、外出禁止を長引かせるだけだ」、「なんて身勝手なんだ。コロナに感染しても、病院に行くな」、「命より大事なものがあるのか。命があれば、あとからいくらでも働ける」などと批判が高まった。トランプ氏が「知事たちはうろたえたはずだ」、「他人に指示される必要がない人もたくさんいる」と発言したことにも、驚きの声があがった。

   ロイター/イプソスの世論調査によると、民主党員の88%、共和党員の55%が、「外出禁止措置を続けるべきだ」と答えている。

   民主党の州知事による経済封鎖が厳しすぎると、トランプ氏は批判してきた。トランプ氏の支持者の多くも、そう感じているようだ。

コロナをめぐる分断

   米国でも日本でもマスコミは、「美容院にだって行きたい」、「肥料が買えない」といった自由に行動できない不満の声を繰り返し報道した。

   その報道をテレビで見たミシガン州中部にある人口3千人の町に住むアンソニー(40代)は、「彼らの本当の叫びは、明日の生活に対する不安と絶望、孤独感なのだろうと思う。自分たちもコロナに感染するのではないか、大事な人が命を落とすのではないか、という恐怖はもちろんあるはずだ。でも、それでも働かなければ、自分や家族の命を守れない人たち、これ以上、待てない人たちがいるんだ」としみじみと電話で私に話した。

「テレビやネットニュースでは、イタリアやニューヨークの悲惨な映像が繰り返し流れてくる。僕の町もそうだけれど、アメリカの多くの地域では、状況がまったく違うんだ。在宅勤務できる人はいい。でも、できない人もたくさんいる」

   デモを阻止しようと、医療服を着て立ちはだかる女性に、「なぜあなたが働けて、私が働けないのよ!」と怒鳴る女性の参加者がいた。

「ここは自由の国アメリカ。社会主義国じゃないのよ」
「コロナから完全に身を守ることなんて不可能だ。そのために、市民の生活を崩壊させ、国の経済を崩壊させてもいいのか」

   こうした声もある。

   コロナをめぐって、この国は分断されている。

   でも、抗議する自由がある。それも、アメリカだ。(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

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