2024年 4月 25日 (木)

伊藤詩織氏「書類送検」をどう評価すべきか 弁護士に聞くその実際

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   ジャーナリストの伊藤詩織氏が、元TBS記者で同局元ワシントン支局長の山口敬之氏の告訴により、虚偽告訴と名誉毀損で書類送検されていたことが2020年10月26日、分かった。伊藤氏側がJ-CASTニュースの取材に「書類送検されたのは事実です」と認めた。

   山口氏がSNS上で明かしたことをきっかけにインターネット上で注目されているが、「書類送検」をめぐって反応が割れている。そもそもどんな手続きなのか、弁護士に詳しく聞いた。

  • 伊藤詩織氏(2019年12月撮影)
    伊藤詩織氏(2019年12月撮影)
  • 山口敬之氏(2019年12月撮影)
    山口敬之氏(2019年12月撮影)
  • 伊藤詩織氏(2019年12月撮影)
  • 山口敬之氏(2019年12月撮影)

伊藤氏「警視庁から虚偽告訴、名誉毀損罪で取り調べを受ける」

   伊藤氏は山口氏から15年4月に性的暴行を受けたとして、民事裁判で1100万円の損害賠償を請求し、東京地裁は19年12月、山口氏に330万円の賠償を命じた。山口氏はこれを不服として20年1月、東京高裁に控訴している。

   刑事手続では伊藤氏が山口氏を準強姦で告訴し、書類送検されたが、東京地検は16年7月、嫌疑不十分で山口氏を不起訴処分。伊藤氏は17年5月に不服申し立てをしたが、検察審査会は同年9月に不起訴相当と議決した。

   今回は反対に、山口氏の伊藤氏に対する告訴となる。山口氏は23日に出演したインターネット番組で伊藤氏の書類送検について触れ、一部ネット上で注目された。すると山口氏はフェイスブックで25日、「伊藤詩織氏が書類送検されたのは事実です」と投稿し、経緯を説明した。

   投稿によると、山口氏は19年6月に刑事告訴状を警視庁に提出。「伊藤詩織氏が虚偽の犯罪被害を捏造して警察や裁判所に訴え出た上に、『デートレイプドラッグを盛られた』など、裁判では一切主張していない事を含め、ウソや捏造や根拠のない思い込みを世界中で繰り返し発信して、私の名誉を著しく毀損し続けているからで、罪状は『虚偽告訴』と『名誉毀損』です」としている。

   告訴状は19年7月に受理され、その後20年9月28日に書類送検したとの連絡を警視庁から受けたという。「伊藤詩織氏自身も、容疑者として取り調べを受けた事を先日認めています」とも書いている。

   その伊藤氏は9月23日のフェイスブック投稿の中で、「引き続き、オンラインでの誹謗中傷や、今月は突然、警視庁から虚偽告訴、名誉毀損罪で取り調べを受けるなど日々、心が折れそうになることもありますが、そんな時に支えてくれる方々に心より感謝します」と記述。山口氏の投稿と合致する部分がある。

   J-CASTニュースが10月26日、山口氏の投稿内容について伊藤氏の広報担当に確認すると「書類送検は事実です」と認めた。19年6月に山口氏から告訴状が出されたと、担当弁護士を通じて伊藤氏に連絡が入り、20年9月に本件について取り調べを受け、9月28日に書類送検されたという。一方、「あくまで送検という段階です」としており、起訴や不起訴など検察の判断は出ていないとしている。

書類送検とは? ほかの送検との違いは? 弁護士に聞く

   ツイッター上では山口氏のフェイスブック投稿を受け、「然るべき罰が与えられるべき」「現在は『容疑者』でもあるという事実」という声から、「現状は書類送検されただけなので形勢逆転で伊藤詩織氏を叩け!という流れはどうなのだろうか?」「まだ起訴すらされてないわけで書類送検されたからと言って有罪だの悪しざまに言ってるとそれこそ名誉棄損で訴えられる可能性がある」(原文ママ)という声まであり、伊藤氏の書類送検に対して評価が分かれている。

   では「書類送検」とはどんな刑事手続なのか。「弁護士法人 天音総合法律事務所」の正木絢生代表弁護士は10月27日、取材に対しこう解説する。

「前提として『書類送検』という言葉自体は法律上の正式名称ではありません。警察はある犯罪について捜査をした場合、その事件を起訴するか不起訴にするかにつき一切の権限を持つ検察官にその事件に関する証拠、資料を送致(刑事訴訟法246条本文)して、その判断を委ねることになります。

仮に被疑者が警察の捜査の段階で逮捕されていた場合には、被疑者の身体も検察官に送致されることになりますが、そうでない場合は被疑者を逮捕しないで資料だけを検察官に送るため、これが一般に『書類送検』といわれているものです」(正木弁護士)

   他の送検の仕方とどう違うのか。

「先ほど述べたように、警察が捜査をして検察官に事件を送致する際には被疑者を逮捕した場合とそうでない場合の2パターンあります。被疑者を逮捕した場合には、警察は被疑者を逮捕してから48時間以内に被疑者の身体と事件書類を検察官に送致する必要があります(刑事訴訟法203条1項)。

これに対し、被疑者を逮捕しなかった場合(書類送検)には明確な時間制限等はありませんが、警察は『速やかに』事件書類だけを検察官に送致する必要があるとされています。(刑事訴訟法246条本文)」(正木弁護士)

「容疑者」の呼称について

   書類送検自体をもって、犯罪事実があったと確証することになるのだろうか。

「確かに警察側も何の確証、証拠もなく事件を捜査し、書類送検するとは中々考えられませんが、先ほど述べたように、最終的に資料や証拠を検討して事件を起訴するかの判断をするのは検察官なので、書類送検されたからといって確実に有罪にできるまでの確証があるとは限りません」(正木弁護士)

   警察が書類送検の段階でどれだけ犯罪の証拠をそろえているか、についてもこう説明する。

「何の証拠もなく書類送検はしないとは思いますが、証拠と言ってもその価値は玉石混交なので、書類送検の段階で有罪にできるほどの証拠があるかは分かりません」(正木弁護士)

   今回は警察が告訴状を提出したことで取り調べなどが始まったが、「告訴状の受理」によって犯罪があった可能性が高いということにはならないのか。それとも、告訴状というのは基本的に受理されるものなのか。

「警察の内部規則である犯罪捜査規範63条1項によれば、警察官は告訴状の受理義務が定められていますので、書式の不備でもない限り、警察は告訴状を受理することになっています。したがって、告訴状が受理されたからといって捜査機関側に犯罪の確証があるとは限りません。なお、警察は告訴を受理した場合、速やかに事件書類などを検察官に送致する必要があります。(刑事訴訟法242条)」(正木弁護士)

   犯罪の疑いが持たれると「被疑者」、メディアでは「容疑者」と呼んでいる。書類送検の段階でそう呼ぶかどうかについては、このように解説した。

「書類送検段階でも被疑者と呼びます。もっとも、被疑者(メディアでいうところの『容疑者』)は、捜査機関から犯罪をしたと疑われている者のことなので、『被告人』(刑事起訴されている人のこと)のように明確な基準というのは中々難しいです。(大なり小なり疑いさえあれば皆被疑者です)」(正木弁護士)
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