2024年 4月 26日 (金)

岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち
選挙直前の祈り、断食、衝突、そして暴動の気配

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ベニヤ板で塞がれた五番街の高級デパート

   五番街を挟んでトランプタワーの真正面にある高級ブランド店「プラダ」前の歩道で、5、6人の男性作業員が、大きな木材を台の上に乗せて寸法を測り、電動ノコギリで切っていた。

   店の正面のフロントガラス一面を、ベニヤ板で覆っているのだ。今回の選挙で万が一、暴動が起きた時に備えている。

   中から現れたスタッフが、「選挙日は店を閉める。その翌日のことは、まだわからない」と首を横に振った。

   五番街を数ブロック南に歩くと、別の店の前でも同じようにベニヤ板を貼り付けている最中だった。そのうちの1人が吐き捨てるように言った。

「けだものたちがまた、店を襲うかもしれないからな」
「けだものって?」
「また、前に暴動を起こしたやつらだろ」

   五番街を数ブロック北に行ったところにある高級デパート「バーグドーフ・グッドマン」は、すべての窓がすでにベニヤ板で塞がれていた。

「こんな選挙は初めてだよ」「恐ろしい時だ」

   暗い表情で何人ものニューヨーカーがつぶやくそんな言葉が、私の中で日々、リアルになっていく。

   雨はますます激しく降り注ぐ。まだ午後4時だというのに、辺りは薄暗い。

   2日後、そして3日後。この街で何が起きるのだろう。

   コロナで人通りの少ない閑散とした街中を歩きながら、思わず手を合わせたくなった。ふだんは忙しさにかまけて、ろくに祈りもしない私なのに。

   アパートに戻ると、フロリダ州に住む知人からメッセージが届いた。

「今日は僕の70歳の誕生日なんだ。トランプ氏が再選すれば、それは僕にとって素晴らしいプレゼントだ。でも、今はとにかく、この国のために祈っているよ」

(随時掲載)

++ 岡田光世プロフィール
おかだ・みつよ 作家・エッセイスト
東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。米中西部で暮らした経験もある。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計40万部。2019年5月9日刊行のシリーズ第9弾「ニューヨークの魔法は終わらない」で、シリーズが完結。著書はほかに「アメリカの家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。

 
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