2024年 4月 24日 (水)

関心持たないのは「ご都合主義的な人権感覚」 芸人「せやろがいおじさん」はなぜ入管法問題を訴えるのか

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   2021年2月に政府が国会に提出した「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の改正案を問題視する声が強まっている。国外退去を拒む外国人を刑事罰の対象とすることなどについて「改悪」だとの指摘が出ている。

   4月7日には改正案の反対を訴える団体が厚労省で記者会見を開いたが、その中の一人に、沖縄を拠点に活動するお笑い芸人「せやろがいおじさん」がいた。芸人の立場でありながら、なぜ入管法問題を訴えるのか。話を聞いてみた。

  • 会見に登壇したせやろがいおじさん
    会見に登壇したせやろがいおじさん
  • 厚労省で会見を開いた「入管法改悪に反対する有志の会」
    厚労省で会見を開いた「入管法改悪に反対する有志の会」
  • ナイジェリア出身の難民申請者・エリザベスさん。自らの収容経験を経て、各地の入管施設で収容者に励ましの言葉を送ってきた
    ナイジェリア出身の難民申請者・エリザベスさん。自らの収容経験を経て、各地の入管施設で収容者に励ましの言葉を送ってきた
  • クルド人のデニズさん。19年に東日本入管センターで職員から暴行を受けたとして、国家賠償訴訟中だ
    クルド人のデニズさん。19年に東日本入管センターで職員から暴行を受けたとして、国家賠償訴訟中だ
  • 「入管法改悪に反対する有志の会」賛同人の小島慶子さん(右)
    「入管法改悪に反対する有志の会」賛同人の小島慶子さん(右)
  • 会見に登壇したせやろがいおじさん
  • 厚労省で会見を開いた「入管法改悪に反対する有志の会」
  • ナイジェリア出身の難民申請者・エリザベスさん。自らの収容経験を経て、各地の入管施設で収容者に励ましの言葉を送ってきた
  • クルド人のデニズさん。19年に東日本入管センターで職員から暴行を受けたとして、国家賠償訴訟中だ
  • 「入管法改悪に反対する有志の会」賛同人の小島慶子さん(右)

「ソシャゲのガチャより確率低いやないかい」

「雨宿りしに来た人にこの軒先から出ていくか、俺から水ぶっかけられるか選べっていうてるやつおったらもう鬼やん?そんなやつ絶対退治せなあかんやん。ちょっとスタッフ~鬼殺しと大豆と日輪刀持ってきて~」
「(日本で)難民として認定されたのはたったの44人。難民認定率は0.4%。ソシャゲのガチャより確率低いやないかい」

   赤いTシャツとふんどし姿の男性は、21年3月、YouTubeとツイッターに投稿した動画の中で、入管法改正案の問題点を身近な出来事に例えて訴えた。男性の名は「せやろがいおじさん」。沖縄を拠点に活動するお笑い芸人・榎森耕助さんが演じるキャラクターだ。17年からYouTubeなどに動画を投稿。沖縄の海をバックに、社会問題について早口で「意見提起」するスタイルが人気を集めてきた。

   今回、動画のテーマとなった入管法の改正案には、強制退去処分を受けた外国人の長期収容を改善する目的で、入管収容施設の代わりに親族や支援団体など「監理人」のもとで生活できる「監理措置制度」が盛り込まれた。一方で、国外退去命令の違反者には、1年以下の懲役か20万円以下の罰金、またはその両方を科すという罰則も。また、難民認定を申請している間は一律に送還されなくなるという規定について、3回目以降の申請者は規定の対象から外れる「例外」が設けられる。

   2019年の日本では1万375人の難民申請があったが、このうち難民として認定を受けたのは44人で、割合にすると0.4%。カナダは55.7%、イギリスは46.2%、アメリカは29.6%だといい、こうした他国と比べても低い数値だ。

「絶望に向かうか、希望の方に向かうか」

   今回の改正案をめぐっては、日本の難民認定率が国際的にも低い中で、「難民認定手続き中は送還しない」という規定に例外が設けられること、退去命令違反者が刑事罰の対象となること、監理制度の適用基準のあいまいさなどに対して、厳しい指摘が見られている。

   日本弁護士連合会の荒中会長は2月26日に法案に反対する声明を発表した。NPO法人「POSSE」は、ネット上で廃案を求める署名を実施。4月10日までに、3万筆を超える署名が集まっている。

「アメリカ、ドイツ、イギリス、ニュージーランド...(それらの国は)私たち(クルド人)を難民として認めますが、日本では認められません」(クルド人のデニズさん)
「(国に)帰れっていうのは、死ねっていう意味」(ミャンマー出身のラパイさん)

   4月7日に厚労省で行われた会見。悲痛な思いで訴えたのは、現在「難民認定」を申請している当事者たちだ。彼らの中には、収容施設で職員から暴行を受けた過去を持つ人や、母国に送還された場合に迫害を受ける恐れがある人もいる。

   彼らとともに改正反対を訴える「有志の会」のメンバーには、外国人の権利に詳しい弁護士やエッセイスト・小島慶子さんなどが参加。その中に「せやろがいおじさん」の姿もあった。この日の会見には、いつもの「赤Tシャツ」姿ではなく、ジャケットと「OKINAWA」のロゴ入りマスクを身に着けて登壇したせやろがいおじさん。有志の会では、問題を広く発信する「呼びかけ人」という位置づけだ。

   会見前日には茨城県牛久市にある入管施設を訪れ、収容者に話を聞いたというせやろがいおじさん。母国で銃撃を受けても、仲間がひどい虐殺を受けても、難民としては認められない。収容者の一人とアクリル板越しに「拳」を突き合わせ、こんなことを思ったという。

「絶望に向かうか、希望の方に向かうか。我々の言葉の発信次第で変わっていくぞという大きなものを託された気がしました」

「日本人だから助けるのか、外国人だから助けないのか」

   お笑い芸人の立場でありながら、なぜ「入管法問題」を発信するのか。J-CASTニュースが理由を聞くと、せやろがいおじさんは「(世間の認識からすれば)お笑い芸人がやるもんじゃないやろ、っていう感じなんですが」と前置きした上で、次のように話してくれた。

「直近で言うと森喜朗氏の女性蔑視発言や(札幌地裁の)同性婚訴訟に関して、多くの方が声をあげている。それって、根っこはこの(入管法の)問題とおなじ『人権問題』だと思うんです。女性蔑視で言えば、日本では人口の半分が当事者。自分が当事者だったり、まわりに当事者がいた場合には声が上がるが、当事者がいない場合は上がらない。これ結構、『ご都合主義的』な人権感覚なんじゃないかなと感じるので、動画として扱う価値はあるかなと」

   せやろがいおじさんは入管法の問題を考える上で、今が「岐路」に立っているとし、メディアに対して次のような要求をつきつけた。

「(入管法の問題について)なかなか関心の声が広がっていかない。でも日本人だから助けるのか、外国人だから助けないのか。日本人の人権感覚というのが強く問われているタイミングじゃないかなと思います。メディアがいかに、当事者ではない日本のみなさんに、関心を喚起できるか。腕の見せどころではないかと感じます」
<(2021年4月11日13時00分追記)署名について記述した部分に誤りがあったため、記事の一部を修正しました。>
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