「コスプレに関する事案が裁判所に持ち込まれる事例は少ない」
一連の考察を述べたうえで、渥美弁護士は「コスプレに関する法的な問題は弁護士によっても見解が異なる」と添える。判例がないためだ。松永弁護士は「裁判の結果は個別案件への判断であり一般化できるものではないが、裁判所の判断が社会に与える事実上の影響は大きい」と話す。
「ファン文化の委縮を恐れてか、コスプレに関する事案が裁判所に持ち込まれる事例は少ないです。著作権はとても強い権利でとても大きな影響が出ます」
その例として「マリカー事件」を挙げる。「MARIモビリティ開発」(当時:マリカー社)が、任天堂のレースゲーム「マリオカート」のキャラクターが用いていたような衣装や車を貸し出して問題視された。
「マリカーという任天堂の現象としてよく知られている言葉を商号として利用するなど、運営がまるで任天堂であるかのような誤解を与える点が不正競争防止法違反とされました。一方で、キャラクター衣装の貸与などによる著作権侵害に関する判断はされませんでした」
裁判の結果次第では、ファン活動として趣味でコスプレを楽しむ人や衣装を制作する人が活動を委縮する可能性があった。
楽栄の摘発については、今後どんな影響が出る可能性があるのか。渥美弁護士は「主に商標権侵害が問題となった事案であると思われ、一般のコスプレイヤーの方にとってはこれまでと大きく状況が変わることはない」と推測する。
21年1月には一部の報道によって政府がコスプレ活動を制限するのではないかといった疑念も広がったが、内閣府知的財産戦略推進事務局は当時のJ-CASTニュースの取材に対し、「コスプレイヤーの皆さんが安心してコスプレを楽しむことができる環境」を検討するとして、著作権者やコスプレイヤーのえなこさん、弁護士らに聞き取りを進めると回答していた。
渥美弁護士は、著作権利者によるガイドラインの制定や法的課題の整理を望む。
「これまでコスプレはルールがはっきりしておらず、著作権利者から黙認される状況が続いてはいますが、はっきりしない状況ではファンも不安だと思います。公式によるガイドラインの制定が待たれます。 また法律ができたときと比べて、時代も変化しました。例えば一昔前にカメラで撮影したものを多くの人々に発信できるのはマスコミなど一部に限られていましたが、今ではスマートフォンでの撮影も、SNSでの公開も誰でも出来てしまう。現代の状況に照らし合わせて、法律の解釈も考えていく必要があるのではないでしょうか」
著作権者とファン、双方が納得できる形での仕組み作りが待たれる。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)