「今の環境は恵まれている」それでも消えない不安 「短期集中」転職活動でつかんだ想定外のキャリア【専門家が解説】

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「今の会社に大きな不満があるわけではない」「本当にこのままでいいのだろうか」

   職場環境は良好で、人間関係にも恵まれている。福利厚生もしっかりしている。客観的に見れば「辞める理由がない」ように見える環境。しかし、仕事に余裕が出てくる20代後半から30代にかけての、ビジネスパーソンとして成長が鈍化したと感じたり、将来に不安を感じたりするタイミングで、ふとした瞬間に上記のような静かな焦燥感に襲われる──。

   今回は、恵まれた環境にいながらも将来への危機感から一歩を踏み出し、結果として想像以上のキャリアを手に入れた30代の事例を紹介します。「現状維持か、挑戦か」で揺れるあなたの心に、ひとつの道しるべを。リクルートエージェントでキャリアアドバイザーをつとめる松原大悟が解説します。

  • 「短期集中」の転職活動もポイントに(写真はイメージ)
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「贅沢な悩み」とふたをせず、将来の自分に向き合う勇気

   Aさんが転職活動を始めたきっかけは、「理想の40代に向けて、30代のうちにスキルアップできる環境でキャリアを積んでいきたい」という、将来への前向きな危機感でした。

   Aさんの前職は、ある企業の一般職。職場環境や福利厚生は非常に充実しており、ご自身でも「正直、現職のままでもいいかな」と思う瞬間があったそうです。

   しかし、業務内容は総合職のサポートが中心。新しいスキルを習得する機会は乏しく、同じような業務をしていても総合職とは給与やキャリアの広がりに明確な差がある現実に、少しずつ納得がいかなくなっていたといいます。

「3か月」のつもりが「1か月」で完走 スピードが成功を呼ぶ理由

   転職活動において、意外と見落とされがちなのが「期間とスピード感」の設定です。Aさんは当初、「3か月くらいかけてゆったりやろうかな」と考えていました。レジュメ(職務経歴書)の作成も2週間ほどかければ良いだろう、と。

   しかし、担当のキャリアアドバイザーから「まずは3日間で完成させましょう」という提案を受け、Aさんは集中的に取り組みました。すると、完成した翌日からすぐに多数の求人紹介が始まり、面接設定が進んでいったのです。

「最初はそのスピードにびっくりしましたが、終わってみれば転職活動は約1か月で終了。気づいたら内定までいった感覚でした」

   Aさんが振り返るこの「スピード感」は、実は転職活動を成功させるための重要なカギの1つです。私たちもよくアドバイスしていますが、転職活動を長期間ダラダラと続けてしまうと、どうしても中だるみが生じます。市場の求人は流動的で、良い求人ほどすぐに埋まってしまうのが現実です。「ゆっくりでいいや」と思っている間に、チャンスを逃してしまうことも少なくありません。

   Aさん自身、「逆にゆっくりなペースで続けていたら、(途中で疲れて)止めていたかも」と語っています。短期集中で一気にエネルギーを注ぐことで、モチベーションを高く保ったまま走り抜けることができる。これは、忙しいビジネスパーソンが転職を成功させるための鉄則ともいえるでしょう。

お見送り続きの苦境を救った「ルーティン化」と「覚悟」

   もちろん、短期集中とはいえ、すべてが順風満帆に進んだわけではありません。Aさんも途中、8回連続で面接がお見送り(不採用)になるという厳しい現実に直面しました。

   自分が否定されたような気持ちになり、心が折れそうになる瞬間。これは誰にとっても辛いものです。しかし、Aさんはそこで立ち止まらず、行動を「ルーティン化」していきました。

「キャリアアドバイザーから送られてくる求人を、通勤電車の中でチェックしてエントリーする。会社に到着したら、現職の仕事に頭を完全に切り替える」

   このように、生活の中に転職活動を「作業」として組み込むことで、一喜一憂するエネルギーの消耗を防いだのです。これは非常に有効なメンタルコントロール術です。不採用通知が来ても、それは「ご縁がなかっただけ」と捉え、淡々と次の「タスク」をこなす。この冷静さが、活動を継続する力になります。

   そして、Aさんにはもう1つ、大きなターニングポイントがありました。有給休暇を使って面接に行く回数が増え、現職の同僚たちに業務のしわ寄せがいってしまうことへの「申し訳なさ」です。周囲が良い人たちだからこそ、その罪悪感は募ります。そこでAさんは決断しました。

「この会社でいったん最後にして、ここが駄目だったら、しばらく転職活動は休憩しよう」

   期限を決め、覚悟を決めたことで、面接への取り組み方が変わりました。これが最後だという思いが、入念な面接対策や企業研究への熱量に変わり、結果としてその「最後の1社」から内定を勝ち取ることができたのです。

「管理職」という新しい目標 転職で見えた、自分の可能性

   晴れて内定を得たAさんの新しい職場は、総務部門。前職と同じバックオフィス業務ではありますが、その役割は大きく異なります。

   以前は総合職のサポート業務に限定されていましたが、新しい職場では、自らが主体となって総務としてのキャリアを積み上げていくことが求められます。さらに、今回の転職によって「マネジメント」にも挑戦できる機会が得られました。

「当初は全くキャリアの選択肢に入っていなかった『管理職を目指したい』という新しい目標もできました」

   これは、転職活動を通して自身の可能性が広がった素晴らしい事例です。1つの組織に長くいると、どうしても「自分はこういう役割だ」「これ以上のことはできない」と、無意識に自分の限界を設定してしまいがちです。しかし、環境を変え、求められる役割が変われば、眠っていた能力が開花することは往々にしてあります。

   一般職から、専門性を持った総務職、そしてマネジメントへ。「理想の40代を迎えるための準備ができた」と語るAさんの言葉には、かつての「もやもや」は微塵もありません。

まだ見ぬ「理想の自分」に出会うために

   私たちキャリアアドバイザーのもとには、このような「一般職から総合職や専門職へステップアップしたい」という相談も数多く寄せられます。

   その際、多くの方が口にするのが「今の環境を手放すことへの恐怖」と「もっと成長したいという欲求」の板挟みです。「今の会社に不満がないのに転職を考えるなんて、贅沢な悩みでしょうか?」と聞かれることもありますが、私は決してそうは思いません。

   環境が良いからこそ、そこに安住してしまうことへの「見えないリスク」を感じ取っている証拠だからです。Aさんの場合も、「このままでいいのか?」という心の声を無視せず、「まずは軽く相談してみよう」という気軽なステップで転職エージェントに登録したことが、大きな転機となりました。

   転職活動は、必ずしも「今すぐ辞めるため」に行う必要はありません。まずは自分の市場価値を知り、選択肢を確認するために動く。その「初動」こそが、未来を変える第一歩なのです。



【プロフィール】
キャリアアドバイザー 松原大悟/地方公務員として児童福祉業務にて経験を積み、2023年にリクルートに入社。キャリアアドバイザーとして、さまざまな業界・職種の求職者の転職を支援。求職者の方にとって納得感のある転職活動ができるよう支援をすることにこだわりを持つ。

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