偽動画などの規制を強化する公職選挙法改正法案について、与野党は2026年6月23日に合意、25日の政治改革特別委員会で採決、今国会で成立する見通しとなった。しかし、表現の自由などとの関係もあり、選挙期間中に動画すべてを禁止するわけにもいかず、このままでは選挙自体が混乱する恐れもある。
「早苗ちゃんの演説見た?」実はAIの作った偽動画
2026年初めの「高市電撃解散」で選挙が公示された翌日の1月28日、X投稿された動画を2月3日デジタル朝日が紹介している。
マイクを向けられた高齢の女性らが、次々に語っていた。
「早苗ちゃんの演説見たか?わしは胸が熱くなったわ」
「早苗ちゃんの歩きたい道、わしらの力で切り開いてやらなあかん」
記事によると、この動画は2月4日現在184万回表示され、2万超の「いいね」がついた。しかし、これは生成AIで作られた動画だった。初めに作られた動画には「AIで作られた」意味の説明表示があったが、これは3日までにネット上から消えた。代わってネットに現れたのが、この動画の複製で、これには、「AIによる生成」の説明はなかった。
1月末には、中道改革連合の政見放送の偽動画がネットで拡散されていた。中道改革連合の野田・斉藤両共同代表が突然机を押し倒して、扇子を持って踊り出す動画だが、X上に投稿、拡散され、1日で100万回以上表示された。
公選法改正案は事業者に拡散防止を求めるが
与野党が合意した公職選挙法改正案では、SNS事業者に対して選挙の公平性を確保するための対策を義務付け、インターネット利用者に対しては「選挙の公正を害することがないようにしなければならない」と明記した。(テレビ朝日系)
日経新聞によると、与野党が合意した法改正の要綱案は、SNS事業者に虚偽情報による悪影響を軽減するための措置を講じた上で、定期的な公表を義務付ける。与野党は、情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)の改正と合わせ、2027年春の統一地方選に適用する考えだ。ただし、偽情報の投稿をしないように促すが、罰則は設けない。
これに対して野党の出席者は「表現の自由に配慮しながら、必要最低限の立法措置をまずは行う」と語っている。
しかし、日本が参考にした欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)では、削除などの要請に対応したのは、「メタ」社で46%、X(旧ツイッター)は0.1%にとどまっている。どの程度の効果が望めるかは分からない。
収益目的停止の一方で、言論の自由の制限には慎重論も
SNSという場は、だれもが意見や動画を投稿できる自由な広場だ。一方で、ウソでも事実でないでっちあげの動画でも放り込める「無法地帯」ともいえる。
室橋祐貴・日本若者協議会代表理事は、収益目的の動画拡散などについて、「トレンドに合わせて動画を量産する収益目的の動画配信の影響は大きく、収益停止は効果的ではないか」という(デジタル日経)。一方で、「言論の自由」制限には慎重な意見も少なくない。
梶原健祐・九大准教授(憲法)は言う。「『表現の自由』の根底には、政府が介入せず市民の自由なやりとりに任せておけば、虚偽や誤りは反論されて淘汰されるという考え方がある。ただ、SNSやAI技術の発達で状況は大きく変化した。これだけ瞬時に偽情報が量産され、拡散されると、反論も上書きも追いつかない。今回のような、政府の弱い介入は妥当だが、あくまで例外的なものと考えるべきだ」(デジタル朝日)
政府の規制をどこまで広げるか。市民の自律との間で試行錯誤が続きそうだ。
(ジャーナリスト 菅沼栄一郎)