理由も分からないまま続いた「威圧」
中村さんは、恐怖を感じ始めた。「本当は、その場から離れたかった」と振り返る。しかし、その時間帯は帰宅ラッシュ。車内は混雑しており、そう簡単には移動できなかった。
中村さんは勇気を出して、男性の顔を見た。すると――。
「ものすごい形相で睨まれていました。驚きよりも先に、不気味さを感じましたね。男性は、怒っているというより、異様な雰囲気だったんです」
中村さんには、なぜ蹴られるのか心当たりがなかった。まったく理由が分からないのだ。それでも男性は、足先で小刻みに蹴るような動きを続けていたという。
それ以上関わることを避けるため、中村さんはイヤホンから流れる音楽と、窓の外の景色へ意識を向け続けた。
「早く乗り換え駅に到着してほしい。そればかり考えていました」
結局、大きなトラブルには発展しなかったが、その出来事は今も強く印象に残っているようだ。
「満員電車で、理由も分からないまま理不尽な行動を向けられる怖さを、この時初めて知りました」
公共交通機関は、不特定多数の人が利用する。何気ない行動が、相手へ大きな不安や恐怖を与えることもある。トラブルへ発展しなくても、心に長く残る出来事になる場合があることを、忘れてはいけない。