検察幹部に「万能感や選民思想」 元検事のパワハラ被害、女性検事が涙の告発

   大阪地検特捜部で研修を受けた元検事の男性が、指導担当の主任検事から人格を否定する発言を受けたり、違法捜査を強要されたりして心身の不調をきたし、辞職に追い込まれたと訴えている。

   元大阪地検トップによる準強制性交事件で被害を訴えている元部下の女性検事が、被害を訴える手記を男性から託され、女性検事の判断として、2026年8月3日に東京・霞が関の司法記者クラブで会見して公表した。報道機関などを対象にした公益通報(3号通報)の位置づけで、法務省や検察庁から独立した第三者委員会による調査を求めている。

   女性検事は4月30日に所属先の大阪地検に辞表を提出している。記者会見では、現職検事に向けて声を詰まらせながら

「私もこの被害者も、あなたたちと何も変わりません。検事の仕事が大好きだったんです。 ずっと続けたかったんです」

と話し、沈黙すれば

「次はあなたたちが犠牲になります。そして市民が犠牲になります」

と訴えた。

  • 辞職を余儀なくされた元検事の男性から託された手記を読み上げる女性検事。女性検事は、元大阪地検トップによる準強制性交事件で被害を訴えている
    辞職を余儀なくされた元検事の男性から託された手記を読み上げる女性検事。女性検事は、元大阪地検トップによる準強制性交事件で被害を訴えている
  • 手記ではさまざまなパワハラを訴えている
    手記ではさまざまなパワハラを訴えている
  • 記者会見には郷原信郎弁護士も同席した
    記者会見には郷原信郎弁護士も同席した
  • 辞職を余儀なくされた元検事の男性から託された手記を読み上げる女性検事。女性検事は、元大阪地検トップによる準強制性交事件で被害を訴えている
  • 手記ではさまざまなパワハラを訴えている
  • 記者会見には郷原信郎弁護士も同席した

「お前ポンコツだな」「3時間睡眠で仕事回せるだろ」

   公表された手記や女性検事の説明によると、男性は約10年間検事を務め、西日本の地検に在籍していた。23年11月から約1か月間、大阪地検特捜部で脱税事件の捜査研修を受け、男性よりも10年以上先輩にあたる、財政経済犯の主任検事の指導を受けた。

   男性は、主任検事から「お前ポンコツだな」「仕事をサボってきたからろくな調べができない」「3時間睡眠で仕事回せるだろ」「こんなミスばっかしてるんなら、お前のケツなんて持たねえ」などと、人格を否定するような言葉を淡々と言われ続けたという。「3時間睡眠」の言葉を真に受け、研修室の椅子を並べて仮眠を取りながら作業したこともあった、とも説明した。

   捜査をめぐっては、国税当局での供述から一部否認に転じた容疑者について、想定する事件の筋書きに沿った調書を先に作成し、その内容を供述させるよう指示されたと訴えた。さらに、容疑者のスマートフォンには通話の録音が大量に残り、無罪につながり得る「消極証拠」が含まれる可能性があったが、主任検事から「録音データがあることは上司には報告せずネグれ」と指示されたとしている。

   男性は別の先輩検事に相談した後、録音の存在を副部長に伝え、内容を確認した。副部長は起訴可能と判断したという。研修を機に男性は「心身が壊れた」と感じたといい、25年1月ごろに辞職の意思を上司に伝え、同時に研修中の出来事を申告した。

   男性が手記に記した説明では、大阪高検が数か月にわたり調査し、25年春~夏ごろに口頭で結果を伝えた。パワーハラスメントは認定した一方、証拠を隠す指示については「研修員が勘違いしてしまう発言があった」と説明。「パワハラと認定したのは1回目だから、今回は許す」と言われたという。当時の主任検事は、すでに大阪高検管内から異動しており、異動先の高検が注意しただけで、正式な懲戒処分や男性への謝罪はなかったという。

   男性は26年に辞職。手記には

「私は、誇りを持って、懸命に、検事の仕事をやってきました。検事の仕事が大好きでした」
「一連の被害で、辞職に追い込まれたのが無念でなりませんでした」

とつづった。

   手記を読み上げていた女性検事は、この部分に差しかかると何度も言葉を詰まらせ、涙をこらえながら読み進めていた。

想定した筋書きに沿う証拠と供述を作り上げやすい構造が以前からある

   なぜ、こうした事案が起きるのか。会見後半では、特捜部の捜査手法と検察の人事評価が背景として繰り返し指摘された。女性検事は、警察が捜査した後に検察に引き継がれる「一般送致事件」では、警察が有罪方向の積極証拠だけでなく、無罪方向の消極証拠も証拠化して送るため、検事が証拠の存在そのものを隠すことは起きにくいと説明した。これに対し、特捜部は警察の捜査を経ずに自ら捜査を始めるため「これは証拠化する、これは証拠化しない」と選ぶことができ、想定した筋書きに沿う証拠と供述を作り上げやすい構造が以前からあるとした。

   今回の脱税事件の研修では、約1か月で起訴し、報道発表する日程まで事実上決まっていたとされる。第三者委員会の専門家として会見に同席した、検事出身の郷原信郎弁護士は、本来は研修中に事件の見立てが崩れれば別の事件に差し替えるなどの対応が必要だったと指摘。予定通りに進まなければ主任検事や部長、副部長の責任が問われるため、無理な捜査につながった可能性があるとの見方を示した。

   郷原弁護士によると、昔は「もっともっとひどいことは、いっぱいありました」。1990年代の特捜部では、取り調べ前に供述調書の原稿を主任検事に見せ、添削された内容に沿って供述を取る「原稿決裁」が常態化していたという。特捜部や公安部では、組織が描いた枠に捜査をはめ込む傾向が一般送致事件より強かったと振り返った。

   女性検事は、誠実に容疑者や被害者と向き合う検事は多いとする一方、「万能感や選民思想、認知のゆがんだ人たちが幹部職員にはびこっている」と批判した。特捜経験者が法務省刑事局と特捜部を行き来しながら出世し、「検察組織を牛耳っている」ため、現場からの異論が通りにくいとも指摘した。

   人事については、真面目に仕事をしている人もキャリアアップできていたとする一方で、問題を抱える人物も出世していくと説明。女性検事は、今回問題になった主任検事と仕事したこともあり、

「正直言って、なぜ彼が特捜キャップ(主任検事)になったのか、すごく疑問を持つこともあった」

と指摘した。さらに、

「いわゆる『ヒラメ』、自分がかわいがれるような、自分に懐くような、すごくゴマをすってくる人たちが、どんどん出世していくというのが、うちの業界」

   だと話した。また、「早く事件を処理した人が評価される」とも。処理速度や件数が優先されることで、十分に証拠を検討しないまま起訴や不起訴を決める拙速な処理を招いていると訴えた。

(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)

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