本人に代わって勤務先に退職の意思を伝える「退職代行」が、曲がり角を迎えている。業界最大手の「退職代行モームリ」の元社長らに有罪判決が下され、サービス全体のイメージが悪化。企業や利用者が業界への不信感を抱きやすい状況となってしまった。急拡大したブームは、このまま「オワコン」になるのか。
報道によると、東京地裁は2026年8月28日、モームリ運営会社の元社長に懲役2年、執行猶予3年、その妻で元従業員に懲役1年6か月、執行猶予3年を言い渡した。法人にも罰金200万円。二人は、退職を巡って法的な交渉が必要になった利用者を弁護士に有償で紹介したとして、弁護士法違反などの罪に問われていた。あっせんした利用者は計174人に上った。
2025年だけで32社設立、退職代行はなぜ流行ったのか
退職代行は2010年代後半から知られるようになり、2022年3月にサービスを開始したモームリが知名度を大きく押し上げた。SNSやメディアへの積極的な露出もあり、新年度になると利用者の急増が話題になるなど、一つの社会現象になった。
モームリに続けとばかりに後発業者が次々と参入した。2026年8月28日付の東京商工リサーチの記事によると、26年5月時点で「退職代行」を営業項目に掲げる企業は、弁護士法人を除いて56社。すべて設立10年未満で、そのうち32社は2025年設立だった。同社が「ブームに便乗した参入ラッシュ」と表現するほどの勢いだった。
だが、モームリ運営会社の元社長らが26年2月に逮捕されると空気が一変。「退職代行は問題があるのでは」「民間業者にどこまで任せられるのか」という疑念が広がり、サービス全体のイメージに悪影響を及ぼした。
注意すべきは、退職代行サービス自体に違法性はないことだ。利用者の退職の意思を勤め先に伝えることに問題はなく、モームリも4月に営業を再開し、判決後もサービスを継続している。問題はその先にあり、それが退職代行の「弱点」ともいえる。
会社ともめた時ほど、退職代行サービスは動けない
民間の退職代行業者は、利用者の退職意思を会社に伝えることはできる。しかし法律を順守すると、未払い残業代や有休消化、退職日などを巡って会社と交渉することはできない。非弁行為となる可能性があるからだ。
利用者が退職代行に期待するのは「もう会社と直接話したくないから、全部任せたい」という役割だろう。ところが、会社ともめた時ほど民間業者にできることは限られる。これは利用者から見て、退職代行サービスの大きなネックとなる。
企業側の警戒も強まっている。東京商工リサーチがモームリ元社長ら逮捕後の26年4月に発表した調査結果では、弁護士や労働組合以外の「退職代行」から連絡があった場合、「非弁行為が含まれる可能性があるため取り合わない」とした企業が30.4%に上った。
退職代行に頼んでも、3割の企業で通用しないとなれば存在価値が薄れてくる。
弁護士事務所が1万9800円「だったら専門家に頼もう」
さらに民間業者にとって厳しいのが、弁護士事務所があまり価格差のない料金で参入してきたことだ。
例えば、モームリは正社員・契約社員・派遣社員の利用料金が2万2000円。一方、アディーレ法律事務所は、弁護士が勤務先に退職意思を伝えるライトプランを1万9800円で提供している。有休消化や退職日の調整などの交渉を含む場合は別プランにする必要があるが、意思を伝えるだけならモームリよりも安い。
東京商工リサーチは、退職代行について「代行サービス業者、労組、弁護士が相まみえる市場になりつつあり、今後は淘汰の波が押し寄せる可能性もある」と指摘する。法律のプロである弁護士事務所が同程度の価格で参入すれば、利用者の頭に「退職代行サービスを選ぶ意味はあるのか」「だったら専門家でいい」という疑問が浮かびかねない。
ただ、退職代行の需要が消えることはない。ブラック体質や人手不足などの事情から強く引き留める職場はあり、自分から辞めるとは言い出せない人は確実にいる。
モームリは、退職後の部屋探しや転職サポート、スキル習得支援なども打ち出し、弁護士事務所などのライバルとの差別化を図ろうとしている。民間業者が生き残るなら、安さだけでなく、こうした周辺サービスや手軽さで差を示す必要がある。
会社を辞めたい人はいなくならないが、イメージ悪化や競争の激化で「オワコン化」が懸念される退職代行サービスは、これまで以上に「選ばれる理由」を求められることになるだろう。