中部電力は2026年9月14日、臨時取締役会を経て勝野哲会長と林欣吾社長ら歴代3社長が引責辞任を電撃発表した。さらに、データ不正や架空請求が相次いだ浜岡原子力発電所の、再稼働審査申請を取り下げるという異例の事態に追い込まれた。事実上の再稼働白紙化である。この問題の根底には、日本の電力インフラが抱える構造の歪みが見て取れる。廃炉作業を巡る協力会社との架空請求・不当請求も中部電力では、ここ数年、不祥事や不手際が次々と明るみに出ている。まずは2023年に、公正取引委員会から275億円という巨額の課徴金納付命令を受けた大手電力カルテル問題(同社は現在も取消訴訟で徹底抗戦の構えを崩していない)。また、同年に表面化し、電力・ガス取引監視等委員会から業務改善勧告、資源エネルギー庁から指導を受けた、新電力の顧客情報の不正閲覧問題。そして最も恐ろしいのは、浜岡原発における重大事故対策データの改ざん、廃炉作業を巡る協力会社との架空請求・不当請求。これは東京電力福島第一原発の事故以降に社会に充満した不信感を無視するかのような行動ではないか。そこへとどめを刺したのが、今年9月10日に発表された中部電力と中部電力ミライズによる、約500万件・総額約12億円にのぼる電気料金の過大徴収である。システム計算の誤りなどを理由に、約2年半にわたって地域住民や企業の口座から過大に現金を吸い上げ続けていたのだ。通常の民間企業であれば、取引先からの契約解除が殺到し、信用失墜によって即座に市場から退場を迫られるレベルの失態である。12億円の過大徴収の裏で、過去最高益を叩き出すそれにもかかわらず、なぜ中部電力の屋台骨はびくともしないのか。それは、いくら社内で不祥事を起こそうが、コストがかさもうが、最終的に電気料金が転がり込んでくるからだ。2023年6月、ウクライナショック以降の資源高に対し、同社は家庭向け規制料金の値上げを見送った。これだけ聞くと、良心的なインフラ企業に映るが、2016年の電力自由化以降、ポイント還元などで契約者の8割以上をすでに自由料金へ移行させており、あえて規制料金を申請しなくても、すでに大半の家庭で上限なしの燃料費転嫁ができていたからに過ぎなかった。規制料金は、料金の見直しの際に国の認可や届け出が必要だ。一方で自由料金は、電力会社が自由に設計できる。さらに、管内にひしめくトヨタ自動車をはじめとする世界的製造業に対し、操業に不可欠な特別高圧・高圧電力を大幅に値上げした。これらが重なったこともあり、同社は2024年3月期に過去最高益を叩き出し、春闘では満額回答の賃上げを達成した。一般家庭や地域産業がコスト高に喘ぐなか、計算ミスで12億円も余分に徴収される。その一方で、電力会社は過去最高益を記録し、社員の懐は温かい。あまりに不条理ではないか。「インフラ貴族」の特権構造はいつまで続くのか9月14日の会見で林社長は「度重なる不適切事案により強い不信を招いた」と謝罪しつつも、原発について、「決してあきらめることなく再申請に向けた取り組みを続ける」と未練をにじませた。彼らにとって、今回の会長・社長辞任は何を意味するのか。どれだけトップが頭を下げようが、地域の送配電網を独占し、顧客が他社へ逃げられない構造が変わらない限り、毎月巨額のキャッシュが自動的に転がり込んでくる事実に変わりはない。失われた12億円は返還すれば済む。辞任した役員の席には別の生え抜きが座る。だが、独占のぬるま湯に浸かり、組織風土そのものにメスが入らない限り、看板を掛け替えたところで、同じような隠蔽や不正、ずさんさからくるミスは何度でも繰り返されるのではないか。「インフラの安定供給」という大義名分を盾に、リスクを社会に丸投げし、リターンだけを社内に囲い込む――。この「インフラ貴族」の特権構造はいつまで続くのか。
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